【仙台育英】監督を小説家、自分を編集者に例える「新部長」

【仙台育英】監督を小説家、自分を編集者に例える「新部長」

松島町立松島中、利府町立しらかし台中を率いて、4度の全国大会出場。2005年の静岡全中では、しらかし台中を準優勝に導いた中学軟式野球の名将が、定年退職を期にこの春から仙台育英高校の硬式野球部部長に就任。多くの野球関係者を驚かせた、猿橋善宏部長にお話を聞きました。中学軟式野球の名将が名門校の部長に2022年4月1日、仙台育英高校の須江航監督のフェイスブックに、「新部長就任」のお知らせが写真付きで投稿された。「23歳で出会い16年目の春2022年4月1日。本校硬式野球部の部長にご着任いただきました。東北地方100年の歴史を変えるパートナーとして、共に日本一を目指します」須江監督の隣に写っていたのは、猿橋善宏先生。この発表に、周囲はざわついた。特に驚いたのが、中学軟式野球の関係者だ。なぜなら、中学校野球の指導者として数々の実績を残していたからだ。松島町立松島中、利府町立しらかし台中を率いて、4度の全国大会出場。2005年の静岡全中では、しらかし台中を準優勝に導いた。松島中に異動後、2016夏には宮城大会の決勝に勝ち進み、圧倒的な強さを見せていた仙台育英秀光中に2対1で勝利。このとき、秀光中を率いていたのが、現在は高校の監督を務める須江監督である。「地方の公立であっても、目標と目的を明確に掲げ、日々考えて練習を行い、知性を育むことで、私立と対等に戦うことができる。『やればできる』を実体験できるのが、部活動の優れたところ」この考えのもと、豊富な戦力を誇る私立を脅かすチームを作り上げていた。2020年5月には『部活はそんなに悪者なのか⁉ 脱ブラック部活! 現役教師の挑戦』(インプレス)を出版。部活動の教育的価値を説き、話題を呼んだ。2022年3月末をもって、公立中学校の教員を定年退職することが決まっていた。次のステージは、どの道に進むのか。NPO法人を立ち上げて子どもたちに野球を教えることや、指導者に対するコーチングなどを考えていたが、須江監督からの熱烈なオァーを受けて、仙台育英学園への就職が決まった。小説家を支える編集者の役割春季宮城大会で優勝を飾った翌日、グラウンドでは紅白戦が行われていた。決勝戦はナイターでの開催となったため、解散したのは21時前。翌日は休みを入れたくなりそうだが、朝7時半集合で、夕方までみっちりと試合が組まれていた。県大会で出場機会が少なかった選手とメンバー外がメインの紅白戦となる。「外から見ていても、仙台育英は“良いチーム”と感じていましたが、中に入ってみて、その気持ちはさらに強くなりました。部員全員に出場機会が与えられていて(3学年82名)、野手であれば、こうした紅白戦を含めて、年間300もの打席数が与えられている。そこで出た成績を、須江監督がひとりひとり丁寧に確認し、評価している。多くの子どもたちに、野球をやる喜びや楽しみを供給し続けたうえで、勝利を目指し、なおかつ高校で燃え尽きないようなシステムを作り上げている。なかなかできることではないと思います」チームのスタッフに加わり2カ月、「猿橋部長」として、どんな役割を担うのか。「須江監督は小説家みたいなもので、『日本一』というエンディングに向けたストーリーを、自分の中でしっかりと描いている。そのうえでのぼくの役割は、編集者に近いと思います。内容の行き違いや齟齬があったときに、ササッと微調整して、物語がうまく進むように持っていく。たとえば、須江監督からの指示が選手にうまく通っていないと感じたときには、選手の元に寄って、少し通訳してあげる。そういう役割だと考えています」春季大会では初めてベンチに入り、須江監督はホームベース寄り、猿橋部長は外野寄りに立ち、それぞれの視点からアドバイスを送った。一瞬一瞬の判断力を磨く就任して1カ月半、毎朝7時にはグラウンドに出て、自主練習をサポートする。硬球のノックにも、少しずつ慣れてきた。時間を見つけては、積極的に選手とコミュニケーションを取る。「野球の話から、生まれ育ったふるさとの話まで、いろいろな話を聞いています。仙台育英の選手は、聴く耳があるうえに自己表現ができる。心根が良い。感心するほどです」チームの目標は東北勢初の日本一。トイレには、大阪桐蔭がセンバツを制したときの新聞記事が貼ってあった。もっとも強く意識する相手である。「中学では本気で日本一を目指していましたが、高校ではまだ日本一がどういうものなのか明確にイメージできていません。大阪桐蔭の野球を間近で見ていませんから。ただ、ひとつ言えることは、ゲームの中での瞬間的な判断が勝敗に関わるということ。バッティングで言えば、どんな球を狙うべきなのか。相手の状況を見ながら、的確な判断をして、最善の選択をしていく。こうした考え方を磨いていくことが、日本一に近づくためには必要だと思っています」須江監督の考えとも一致しているところだ。フィジカルや能力だけでは、頂点は獲れない。ひとつだけ、須江監督に提案したこともある。投手陣の走る量を少し増やしてみたらどうだろうか、と。仙台育英の練習には「走り込み」が存在しないが、「走ることは、自分ではどうしても避けがちな練習です。そういう練習を積み重ねることは、ピンチでの踏ん張りや粘り強さにつながっていくと考えています」と、その重要性を説く。今年で61歳。新たなチャレンジの場として選んだ仙台育英で、悲願の日本一を果たすために、すべての時間と情熱を野球に注ぎこむ。(取材・文:大利実/写真:編集部) 関連記事 【仙台育英】名将によるバッティング上達メソッド!(須江航 監督)2022.4.22 トレーニング 【仙台育英】数字と向かい合いながら、スケールアップを図る選手たち2021.1.5 学校・チーム 【仙台育英】この秋、東北大会制したチームに須江航監督がチャレンジを求める理由2021.1.4 学校・チーム 「最後まで選手たちと向き合う」。諦めない指導者たち2020.5.20 企画 【キャプテンに聞きました】仙台育英|田中祥都「憧れは先輩、西巻さん!」2020.1.8 選手 【仙台育英】キャッチャーを「継捕」するという考え方と独自のキャッチャー育成法2020.1.7 学校・チーム 【仙台育英】須江監督が掲げたオフのテーマは「デカく! 速く!」2020.1.6 学校・チーム 【仙台育英】のぞき見! あの強豪校の野球ノート!2019.10.24 学校・チーム 【仙台育英】ナツタイ目前のライオン軍団に直撃!2017.7.21 選手

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