センバツ開幕前日になって突然の出場辞退。プロ注目左腕森下瑠大を要し、前年夏の甲子園四強メンバーも多数残った。優勝候補として名前も挙がった。それなのに......。 どん底から這い上がり、再び目指す甲子園。夏の京都大会を目前に控えた、京都国際のグラウンドへ足を運んだ。 センバツ優勝候補の面影なく敗れた春の大会新型コロナウイルスの影響を受け、苦しんだ人間は世界中にいる。だが、こと高校野球界では、彼らほどコロナを憎む理由のあるチームはないかもしれない。選抜高校野球大会(センバツ)開幕を翌日に控えた3月17日、京都国際は大会出場辞退を余儀なくされる。チーム内にコロナ陽性者が13名出たためだ。「感染者が出たのは仕方がありませんし、ここですべてが狂いました。コロナをすべての言い訳にはできませんが……」そう言って肩を落とすのは、小牧憲継監督だ。大会前、京都国際は大阪桐蔭らとともに優勝候補の一角に挙がっていた。前年夏の甲子園ベスト4メンバーが多数残り、とくにエース左腕の森下瑠大は大会の目玉選手だった。森下は「センバツで進路が変わってくるので、アピールするつもりでした」と打ち明ける。前年まで最速143キロだった球速は、一冬越えて向上の気配を見せていた。持ち前の球質、制球力、変化球の精度、マウンドでの洞察力に、さらにスピードが加われば鬼に金棒。ドラフト上位指名も見えてくるはずだった。森下だけではない。春のセンバツに出場すれば、全国大会出場実績となり大学進学に有利に働くからだ。前年の甲子園を経験していないメンバーにとって、センバツは人生を左右する大きな出来事だったのだ。だが、不条理な疫病によってすべて水泡に帰した。大会前の出場辞退のため、「全国大会出場」という勲章すら失われた。不祥事を起こしたわけでもないのに、京都国際は甲子園に出たということにすらならず、出場回数にもカウントされない。「どうしようもない。現実を受け入れないと……」小牧監督はそう言うが、しばらくはセンバツ出場辞退を引きずるムードがチーム内に渦巻いていた。その後もコロナ余波は続く。クラスターが落ち着き、練習再開となってから多くの部員が体の痛みを訴えたのだ。コロナの影響なのか、精神的な原因なのか、偶然なのかは定かではない。そのなかには、左ヒジの痛みを訴えた森下もいた。春の京都大会は準々決勝で西城陽に2対3で敗退。小牧監督が「まるでお通夜のよう」と形容するように、センバツ優勝候補の面影はなかった。もう一度スイッチが入った近江との練習試合コロナとは関係ないが、冬場には規律違反を犯した主力野手が退部する出来事もあった。春になって森下も投げられず、まさに「飛車角落ち」の状態。京都国際はどん底の淵にいた。転機になったのは、6月8日に滋賀県大津市で行なわれた近江との練習試合だった。出場辞退した京都国際に代わりセンバツに出場した近江は、エース右腕・山田陽翔の奮闘もあって準優勝と大躍進。近江の多賀章仁監督の提案で、両校の練習試合が実現したのだった。小牧監督は、近江の選手たちの成長ぶりに目を見張った。「昨年の秋の近畿大会で近江さんを見ているんですけど、ソワソワとしていた野手にひ弱さがなくなっていました」思えば、前年の京都国際も力があるとは言えないチームだったが、春夏の甲子園を経験するなかで見違えるほど成長した。小牧監督は「やはり甲子園は選手を成長させてくれる場所なんだ」と確信した。「近江の選手たちが大きく変わった姿を目に焼きつけてこい、とウチの選手に伝えました。あの試合を境に『このままじゃ終わらへんぞ』と、もう一度スイッチが入ったような気がします」1+1を10にも1000にも......この夏は総力戦!新戦力も現れた。森下が投げられない間に速球派右腕の森田大翔が台頭。スピードガンの数値は140キロ台前半でも、打者のバットを押し返すような球威が魅力のスリークオーターだ。強豪相手の練習試合でも結果を残し、今まさに旬を迎えている。 森下と二枚看板を張っていた平野順大も一時停滞していたものの、復調の気配を見せている。さらに森下もここへきて左ヒジが順調に回復しつつある。「7割くらい戻ってきました」と、ぶっつけ本番ながら夏には間に合う可能性が出てきた。今夏の戦い方について聞くと、小牧監督は「総力戦」と断言した。「1+1を2ではなく、10にも1000にもしないと勝てないと、選手には言い続けています。束になって戦う京都国際のスタンスをあらためて思い返して、最終的に相手より1点多く取っていればいい。みんなの力を結集させて勝たなアカンと」たまったフラストレーションを発散する舞台は、もうすぐそこにある。今夏に底力を見せて初めて、「京都国際はコロナに負けなかった」と胸を張って言えるはずだ。(取材・文・写真:菊地高弘) 関連記事 【京都国際】選手座談会|先輩後輩関係なく自分の意見を言える!それがこのチームの良さ!2019.11.26 選手 【京都国際】試行錯誤と新たな試みで見えてきた甲子園2019.11.25 学校・チーム 【京都国際】狭いグラウンドで磨き上げられる内野守備2019.11.18 学校・チーム
元記事リンク:【京都国際】この夏は総力戦!センバツ辞退の悔しさを晴らす