春1回、夏2回の甲子園出場を誇る霞ケ浦。特に近年は多くの好投手を輩出しており、昨年のドラフトでも赤羽蓮がソフトバンクから育成1位で指名を受けてプロ入りしている。そんなチームを指導する高橋祐二監督に投手育成のポイント、投手起用の難しさなどについて聞いた。 霞ケ浦の伝統『30メートルでの立ち投げ』綾部翔(元DeNA)、根本薫(元オリックス・プロ入り後外野手に転向)、遠藤淳志(広島)、鈴木寛人(元広島)、赤羽蓮(ソフトバンク)と毎年のようにプロから注目される投手を輩出している霞ケ浦。茨城県内だけでなく、関東全体でもその実績はトップクラスと言えるが、高橋監督は決して自分の手腕のおかげではないと話す。「おかげさまでプロに行くような選手が続いていますが、自分が育てているという感覚は全くありません。綾部や遠藤が出てきたことで、『霞ケ浦は投手が育つ』という話が勝手に広まって、そういう投手としての素養のある大型の選手がうちに来てくれるようになったことが大きいんじゃないですかね」ただ、いくら素質の高い選手が入部してきても、何もせずに順調に成長するわけではない。メカニズムに関しては以前、つくば秀英で監督を務めていた沢辺卓己氏に指導を仰ぐなど(沢辺氏の以前の取材記事はhttps://timely-web.jp/article/1404/)、外部からも良い部分を取り入れているという。また高橋監督が重視しているのが投手に対して『教え過ぎず、放置し過ぎず』ということで、これも他校の指導者から聞いた話を参考にしているという。「浦和学院の森士先生(前監督)も非常に投手を育てるのが上手いので話を聞いたら、投手を育てるのはサボテンを育てるのと同じだと仰るんですね。どういうことかというと水をあげ過ぎてもいけないし、放置し過ぎてもいけないと。そのバランスが重要だということです。だから自分も踏み出す足がインステップやアウトステップし過ぎているなど極端なことは言いますけど、細かくは言い過ぎないようにしています。選手自身の良いボールが投げられた時の感覚が大事じゃないですかね」投手としての感覚を養うために霞ケ浦の伝統となっている練習方法が『30メートルでの立ち投げ』だ。文字通り30メートルの距離でピッチングをするものだが、実際は『立ち投げ』ではなく捕手を座らせて行っているという。その狙いについて高橋監督は以下のように話す。「自分の感覚としても長い距離を“スーッと”真っすぐ投げられれば、ピッチングでも良いボールを投げられるというのがあったんですね。だから高く遠くへ投げるいわゆる遠投ではなく、ピッチングと同じ低い軌道で長く投げる練習が良いんじゃないかと思って始めました。最初は50メートルでやっていたんですけど、少し長いなということで今は30メートルでやっています。キャッチャーも最初は立っていたんですけど、よりピッチングに近い方が良いかなと思って座らせたら投げられたので今は座っています。これくらいの距離で“スーッと”真っすぐ投げるには体全体のバランスと、下半身と上半身を動かすタイミングが上手く噛み合う必要があります。だからそういう感覚を養うのには良いのかなと思いますね。あと30メートルで構えたところにピタッと投げられれば、(実際のマウンドからの距離の)18.44メートルで投げるのは簡単になりますから制球力も身につく。そう考えてずっとやってきた練習です」プロ注目の大型右腕・木村優人今年のエースでドラフト上位候補と言われている木村優人も、霞ケ浦に入学してからこの30メートルの立ち投げをしてスピードもコントロールもアップしたと話していた。もちろんただ投げるのではなく、サボテンに時折水を与えるように適切な指導があったからというのは間違いないだろう。高橋監督が特に指導の際に重要視しているのは立ち姿や姿勢だという。「沢辺先生は『うねり、はがし、受け』の3つをポイントとして仰いますが、自分はその前の立ち姿も大事だと思っています。一本足で立った時のバランスが良いかというのはよく見ていますね。フォーム全体もそうですけど、そういうビジュアルは気にします。見ていてかっこ悪い選手にいい選手はいませんからね。かっこ悪いと感じるのは体の軸が曲がっていることが多いんですよ。それは歩く姿、走る姿にもよく出ますよね。股関節と肩関節の連動は走ることも投げることも共通しています。だから姿勢よく走るというのは大事だと思いますね。木村は綾部や遠藤に比べると走る姿がかっこよくなかったので、そういうことは言いました。本人も意識して、だいぶ良くなってきたとは思いますが」近年は高校野球も打者のレベルが上がり、また球数制限が導入されたこともあって1人の投手で勝ち進むことは難しくなっている。ただ、複数の好投手を揃えていても、一発勝負のトーナメントでは投手起用の判断が命取りとなることも少なくない。高橋監督もいまだに継投などは難しいと話しており、赤羽、山田大河(現・日本体育大)、渡辺夏一(現・桐蔭横浜大)と3人の超高校級の投手が揃っていた昨年もそのことを痛感したという。「3月までは山田が絶好調で、これは夏も期待できると思っていました。その後、3月25日に自分が手術を受けて2カ月くらいチームを離れていたのですが、戻ってきたら山田が春先とは別人のように調子を落としていたんですね。これは困ったなと思っていたら、渡辺が急に良くなってきたんです。赤羽は能力は高いけど投げてみないと分からない。そんな状態で夏の大会に臨みました。案の定、渡辺が4回戦で完封したりして抜群の内容だったので、準決勝の土浦日大戦も渡辺を先発させました」ただ準決勝は4回を終わった時点で渡辺に疲れが見えていた。「0対0だったので、裏の攻撃で渡辺に代打を出して先制点を狙おうとも思いました。ただ残りの5イニングを山田に任せられる状態ではなかったと思ったので、渡辺を引っ張ったら5回に先制されて、結局それが決勝点になりました。山田が春みたいな状態だったら5回から交代だったと思いますが、それができなかった。その時の状態、その日の状態を見極めながら起用するのは本当に難しいですね」今年のチームは昨年のように力のある投手は多くないが、前述した通りエースの木村はプロも注目する好投手であり、その成長ぶりは順調だという。ただ一方で課題についても高橋監督は口にした。「木村に関してはここまでは順調すぎるくらい順調ですね。下級生の頃はどうしても力んでバランスが悪くなることが多かったですが、ストレッチと下半身の強化を重点的にやってきたことが良かったのか、この春からぐっと良くなったと思います。木村に限らず1年の冬よりも2年の冬に伸びる選手が多いですよね。最高学年になる自覚なのかは分かりませんが。ただ、木村は入ってきた時から試合に出ていることもあって、少し“お山の大将”になってしまっている部分はあると思います。今までプロに行った綾部、遠藤、鈴木なんかは中学の時は全く期待されていない選手だったので、そういう点が少し違うのかもしれませんね。もう少し木村自身も周りの選手に対してリスペクトして、大人になってくれると良いと思っています」木村に対して厳しい言葉もあったが、それでもこれだけ注目される選手になったのは本人の努力と高橋監督の適切な指導があったからだろう。また2番手以降は厳しいという話だったものの、下級生にも楽しみな素材はいるという。来年以降も霞ケ浦からまた高校球界を代表するような好投手が出てくることも十分期待できそうだ。(写真・取材/西尾典文) 関連記事 【石岡一】選手座談会「甲子園でプレーした時間が一番楽しかった!」2019.6.13 選手 【石岡一】甲子園初出場!公立高が強豪私学と互角に戦う術(前編)2019.6.11 学校・チーム 【日立第一】逆境乗り越えナツタイに挑む(後篇)2017.7.17 学校・チーム 【日立第一】逆境乗り越えナツタイに挑む(前篇)2017.7.17 学校・チーム 【つくば秀英】甲子園だけでなく選手育成との両立を目指す2017.4.18 学校・チーム 【つくば秀英】甲子園未出場校の際立つ投手育成力2017.4.17 学校・チーム
元記事リンク:【霞ヶ浦】好投手を輩出し続ける、高橋祐二監督の投手指導法