甲子園出場回数は春26回(優勝3回、準優勝3回)、夏23回(準優勝4回)を誇り、100年以上の歴史を持つ広陵高校野球部。だが、そんな実績や歴史にあぐらをかくことなく、チームを30年以上率いる中井哲之監督は常に進化を模索している。 そんな中井監督に、夏の広島大会が始まる前に、広陵のOBはなぜ伸びるのか?、そんな質問をぶつけてみた。大学球界で活躍する教え子達5月下旬、広陵の真鍋慧が高校卒業後の進路をプロに絞ったことが明らかになった。真鍋は身長189センチ、体重93キロの大型スラッガー。今秋のドラフト会議では、高校生野手として佐々木麟太郎(花巻東)と並ぶ注目を浴びそうだ。「本人が『行きたい』と言うてきたら、しょうがないですよね。真鍋はしっかりした両親に厳しくしつけられてきていますし、人間的な部分は心配していません。技術的にも4月に高校日本代表候補合宿に参加して、振る力なら誰にも負けない自信がついたようです」恩師の中井哲之監督はそう内幕を明かした。中井監督が「しょうがない」と語ったように、広陵ではたとえプロスカウトがマークする逸材であっても、高卒でプロ入りするケースは少ない。選手自身が「高卒でプロに行きたいです」と中井監督に直訴しない限りは、大学に進むケースがほとんどだ。そこには教え子に対する中井監督の親心が滲んでいる。そして、広陵のOBは大学以降で才能を開花させ、プロ入りするケースが多い。野村祐輔(明治大→広島)、有原航平(早稲田大→日本ハム/現ソフトバンク)のように高校時代から注目された存在がドラフトの目玉格となってプロ入りする例もあれば、意外な伏兵がプロ入りを果たし活躍する例もある。現在DeNAで活躍する佐野恵太は明治大を経てドラフト9位でプロ入りした。中井監督は佐野に対して「大学で化けたら……」と期待をかけて送り出している。ただし、「プロに行けるとしたらピッチャーかキャッチャーだろう」と考えていた。「年末にやる3年生のお別れゲームで147~148キロを出していたんです。バッティングもセンスはありました。ただ、キャッチャーとしてはキャッチングに難があって、ショートバウンドを止めるのが苦手でしたね」明治大では主砲として活躍したものの、ポジションは一塁手だった。DeNAは佐野の一芸を評価して9位で指名したものの、中井監督はプロ入りに反対したという。「広島の社会人に内定をもらっていたので、『コツコツやっとけ』と言いました。それでも佐野は『どうしても行かせてください』と。そこまでの思いがあるなら、行きなさいと伝えました。佐野は性格的に強気な面があるし、礼儀正しい男です。先輩の筒香嘉智(前レンジャーズマイナー)選手にバッティングの話を聞きまくっていたそうです。結果的に9位だから開き直ってできたのかもしれませんね」広陵OBの進路先として目につくのは、東京六大学リーグの名門・明治大と中井監督の母校でもある大阪商業大だ。ともに大学球界屈指の実力派であると同時に、練習が厳しい大学として知られている。今年のドラフト候補として明治大は石原勇輝、大阪商業大は高太一という広陵出身左腕がいる。といっても2人とも高校時代はエース右腕の河野佳(広島)の控え投手だった。中井監督は石原に対しては「独特なカーブやチェンジアップを持っているし、体さえできればスピードが出てくるはずで楽しみ」と潜在能力を高く評価していた。一方で4番手格だった高には、大阪商業大の進学を「やめとけ」と反対していたという。「技術的に試合に出られないだろうから、やめとけと言ったんです。でも、大商大の富山(陽一)監督は『広陵の子は性根が違うから伸びるんです』と言ってくれて。まさか高が大学で150キロを超えるピッチャーになるなんて、びっくりです」来年には宗山塁(明治大3年)、渡部聖弥(大阪商業大3年)という既に大学ジャパン入りをしている野手の大物も控える。早くも争奪戦が予想される宗山の陰に隠れがちではあるが、中井監督は渡部に対して「もっと評価されていいと思う」と語るほど期待している。「左バッターが思い切り引っ張ったような打球を(右打者の)渡部は流して打てる。高校時代にはロングティーで流して中村奨成(現広島)より飛ばしていましたから」なぜ広陵OBは伸びるのか中井監督は日頃から選手に口酸っぱく言っていることがあるという。「考えんとうまくならんだろうが」指導者に言われたことだけをこなすのではなく、選手が自分で考え、自発的に取り組むよう促している。平日の全体練習は18時ほどで切り上げ、あとは22時半の寮の就寝までの時間の使い方は選手に委ねられている。中井監督はコーチ陣に対しては「教えすぎると伸びんぞ」と伝えているという。「指導者ってのは教えたがるから、選手を見ない怖さはありますよ。でも、空いた時間で選手が自分で考えて、どれだけ練習するか。それで選手は伸びてくるし、球運もついてくるんです」中井監督には印象的なシーンがある。前出の石原が母校の練習に顔を出した際、後輩の投球練習を見て「どうやって投げてるの?」と興味津々な様子で尋ねたのだ。「後輩から教えてもらおうとする素直さですよね。こういう姿勢を先輩から学んでいるのだと思います」チーム運営に関しても、中井監督は「答えは言わない」と徹底している。何か問題が起これば「選手たちでミーティングして、答えを持ってこい」と伝える。選手間でいい話し合いができたと思えば、「それをできるようにせえ」と発破をかける。物足りないと感じた場合は「それでええん? 控えの選手は何も言わんの?」などと再考を促す。このあたりの手綱さばきはさすがベテランといったところだが、中井監督は「選手に絶対にウソはつかない」と覚悟を決めて接している。「打算なんか絶対にしたくないし、自分が間違っていれば『ごめん』と言いますよ」こうした姿勢が伝わるからこそ、広陵の選手たちの口から「中井先生のためにも勝ちたい」という言葉が出てくるのだろう。広陵の練習には悲壮感がない。優れた才能を持った選手たちが、自分のやるべきことを考え、希望を持って前向きに取り組んでいる。そんな先輩の姿を見て、後輩も広陵イズムを受け継いでいく。広陵の黄金時代はまだまだ続きそうだ。(取材・文:菊地高弘/写真:編集部) 関連記事 【広陵】進化する名門、Instagramで「野球の楽しさ」発信2023.7.25 学校・チーム 【広陵】各ポジションの熾烈な競争、4度目の春の頂に挑む名門2019.3.19 学校・チーム 【広陵】中井監督「冬だからと特別な練習はやっていない」2019.3.18 学校・チーム 【キャプテンに聞きました】秋山功太郎(広陵)「1試合1試合を大事に戦っていきたい」2019.3.15 選手 【広陵】ナインに直撃インタビュー!これだけは譲れない「守備へのこだわり」2016.11.24 選手 【広陵】今すぐトライ!伝統高校の守備基礎メニュー2016.11.21 学校・チーム 【広陵】基礎を徹底させてチームの総合力を上げる、伝統の守備練習2016.11.15 学校・チーム
元記事リンク:【広陵】中井監督に聞いてみた、「広陵OBはなぜ伸びる?」