今年、春夏連続甲子園に出場した履正社には、何度挑戦しても跳ね返されてきた壁があった。大阪大会で、対戦するたびに跳ね返され続けた“大阪桐蔭”という壁だ。 昨年までに夏の府大会で15度直接対決しているが、12勝3敗と大阪桐蔭が大きく勝ち越している。決勝でも昨年まで4度対戦。その4戦とも大阪桐蔭が勝っており、履正社にとって直接対決は分が悪かった。 記憶に新しいのは18年夏の100回大会。準決勝で対戦し、2点ビハインドで迎えた8回に3点を奪って逆転し、9回に勝利まであとアウトひとつまで追い詰めるも、連続四球などでピンチを作り、適時打などで逆転された。 当時、采配をふるっていたのは87年から指揮を執る岡田龍生監督(現・東洋大姫路監督)だ。その後、教え子でもある多田晃コーチが監督に就任したのは22年春。コーチとして長らく恩師を支えてきた多田監督は、大阪を勝ち上がる厳しさを現役時代から痛感してきた。「僕らが高校生の時はPL学園が大きな壁でした。岡田監督がおられる時はPLに勝つまでに20年かかったと仰っていました。夏の府大会に関しては、大阪は最低でも7勝しなければならないですが、4勝をした後がさらに大変だとも言われています。日程もタイトになりますし、相手も強くなる。何より暑さによる疲労もありますしね…」。 夏の地方大会は、大きなヤマとして準々決勝が挙げられる。序盤戦は試合の間隔が空き疲労が軽減されるが、準々決勝から徐々に日程の間隔が詰まっていく。さらに大阪大会はそこから再抽選という仕組みも大きな影響を及ぼす。「岡田先生からは夏はベスト8からが勝負だぞとよく言われていました。残りの3つをどう勝っていくか。さらにベスト8からの抽選も重要になります。そこからの戦い方は毎年色々考えさせられますね」。最近、高校野球界では酷暑による様々な対策がなされるようになった。大会日程にさらに幅を持たせること、試合開始時間の調整、1試合中の給水タイム…。そして投手の球数制限だ。チームの対策としては、いかに計算できる投手を数人育てられるか。その中で、多田監督は近年の履正社の傾向をこう明かす。「投手がひとりではなく、どちらでもいける(試合を作れる)ピッチャーがいる年は夏に勝っているように思います。97年(夏の甲子園初出場)の夏は小川仁が1人で投げて勝ったこともありましたけれど、最近だと16年の寺島成輝(元ヤクルト)、山口裕次郎の夏や、全国優勝した19年は、清水(大成・早大)、岩崎(峻典・東洋大)もいました。今年の夏も、増田壮、福田幸之介といったピッチャーがいました」。ただ、16年と19年は府大会で大阪桐蔭との対戦はなかった。それ以外の年はほぼ大阪桐蔭が夏の大阪を制して甲子園に出場している。18年の府大会で激戦を演じた夏に甲子園も制覇し、春夏連覇を達成した大阪桐蔭の戦いぶりは記憶に新しい。「桐蔭さんが夏に強いのは、複数でしっかりとしたピッチャーを揃えられているから。実際、複数のピッチャーを作るのはとても難しいことです」と多田監督は言う。 今年の履正社のマウンドを分け合った増田と福田は1年からマウンドに立ってきたが、センバツで初戦敗退後、投手陣も含めてチームがなかなか波に乗り切れない時期があった。そのため6月から練習試合を連戦で組み、増田や福田をあえて続けて先発させ、投げる体力や感覚を養ってきた。多田監督はコーチ時代からチームのマネジメントの多くを岡田前監督から任されてきた。昨年、監督となり“現状維持では変わらない”と様々な“戦力アレンジ”に奔走した。(取材:沢井史/写真:編集部)*後編に続きます 関連記事 西谷監督は生徒へのアプローチがうまい|岡田龍生監督(東洋大姫路/前・履正社)【「絶対王者」に挑む大阪の監督たち】2022.7.30 学校・チーム 【履正社】名将によるバッティング上達メソッド!(岡田龍生 監督)2021.11.10 トレーニング 『監督からのラストレター』履正社高校/岡田龍生監督2021.2.19 学校・チーム 【履正社】甲子園優勝メンバー座談会(後編)2019.9.25 選手 【履正社】甲子園優勝メンバー座談会(前編)2019.9.24 選手 【履正社】現在の課題は「バッティングの対応力を上げること」2018.12.4 学校・チーム 【履正社】毎日行う実践練習「決まった練習ばかりでは試合で対応できない」2018.12.3 学校・チーム
元記事リンク:【履正社】夏に勝つ為に必要になる、複数投手の育成