公立の進学校が全国王者に大善戦!その陰にラプソードあり!川和高校元監督 伊豆原真人 ×元エース 吉田悠平(前編)

公立の進学校が全国王者に大善戦!その陰にラプソードあり!川和高校元監督 伊豆原真人 ×元エース 吉田悠平(前編)

2年前の夏の神奈川県大会、この年のセンバツ王者•東海大相模に対して9回まで1-1という大接戦を繰り広げた川和高校。実はこの善戦、まぐれではない。「ラプソード」を使った緻密な戦略があったのだ。当時の監督とエースに振り返ってもらった。「リリースアングル」の数値を追求――川和高校時代のラプソードの活用法、取り組みから振り返っていただければと思います。いつ頃から、ラプソードを使い始めたか覚えていますか?吉田 2年生の秋頃だと思います。初めて計測したときは、「自分の球ってこんなものなんだ……」と現実を思い知らされた感じでした。ストレートの球速は130km/h前後で、スピン効率は93%ぐらいだったと思います。伊豆原 MLBでスタットキャストが当たり前のように使われ始め、今までは感覚で表現されていたことが数値でわかるようになっていました。もともと数値に興味があったこともあり、チームでの導入を決めました。ただ導入当初は、球速やスピン効率、回転軸などを見ながら、まだまだ試行錯誤の連続でした。――ラプソードに触れていく中で、「こうやって生かせばいいんだ」と自分自身で気付いた時期はありますか。吉田 3年生の春の大会が終わってからです。伊豆原先生はじめ、指導者の方と話していく中で、自分の良さは「リリースアングル」にあることがわかりました。投げ下ろしているときのほうが、強いストレートを投げられている。良い状態のときは、リリースアングルがマイナス2度。悪いときは0度やプラス1度になっていたので、その違いは顕著に見えていました。――どうしてそこに着目したのでしょうか。吉田 強いストレートを投げるプロ野球選手の中には、リリースアングルがマイナス3度の選手もいると聞き、自分も目指すようになりました。伊豆原 2年生の冬にいろいろな数値を探っていました。何が吉田のコンディションを表すバロメーターになるのか。上からボールを叩くタイプだったこともあり、試行錯誤していく中で、リリースアングルに辿り着いた感じです。マイナス2度のときはコンディションも良いと、判断できます。吉田 調子が悪いときは手首が寝ていたり、ヒジが落ちたりしていて、それがリリースアングルの数値にもはっきり出ていました。――自分自身の感覚とラプソードの数値はリンクしていたのでしょうか。吉田 3年生の夏前には、だいたい合っていました。「今日はこういう状態だから、リリースアングルもこのぐらいだろう」という感じです。練習試合前のブルペンにもラプソードを置いて、1球1球チェックしていました。 伊豆原真人 愛知県立瑞陵高校野球部、信州大学野球部で投手としてプレー。大学院卒業後にシステムエンジニアの道へ進むも、28歳で神奈川県教員へ転職。2013年から川和高校の野球部監督に就任。2023年からは他校への異動に伴い高校野球の現場を離れた。担当教科は数学。 カットとフォークでセンバツ王者に好投――その3年の夏には、4回戦でセンバツ王者の東海大相模と戦い、8回まで1対1の熱戦を展開。9回に勝ち越し点を許すも、見事なピッチングでした。投球の大半がカットボールだったそうですが、どんな狙いがあったのでしょうか。吉田 あの試合は、フォーシームを4球しか投げていません。あとはカットボールが9割で、フォークが1割程度。東海大相模を抑えるには、これしかないと思っていました。カットボールは、2つ上の先輩から「私学を抑えるにはカットボールが有効」と教わり、夏の大会前には自分のモノにできました。――かなり極端な配球だったのですね。吉田 それができたのも、ラプソードで各球種の変化量を知ることができたからです。カットボールとフォークのどちらも、変化量を示す十字の座標のほぼ中心にありました。これは、バッターの視点では、「球種は違うけど同じ球に見えている」と推測することができます。錯覚を起こさせるために、2球種を中心に組み立てていました。――フォーシームを組み合わせれば、カットボールとフォークがもっと生きそうな感じがしますが。吉田 それも練習試合でやったのですが、強豪私学になると、僕くらいの140km/h弱のストレートなら簡単に対応してきます。ストレートを待っていなくても、反応で打ててしまう。だから、あえて投げる割合を減らしました。伊豆原 東海大相模の打線になると、配球で抑えるのは難しいと思っていました。カットボールをストライクゾーンの中に投げ込み、打ち損じの確率を増やしていく。どんどん振ってくるチームなので、そのうえで抑えるしかありません。吉田のカットボールは速いのと遅いのがあり、初見ではなかなか対応できない球種です。――理想的なスピードの目安はあったのでしょうか。吉田 フォークが110km/h前後で、遅いカットボールが122km/hから124km/h、速いカットボールが127km/h前後です。状態の良し悪しをはかる目安になっていました。――変化球でも、リリースアングルはチェックしていたのでしょうか。吉田 していました。カットボールは0度で、フォークがプラス3度です。――フォークは少し上に投げ上げている?吉田 はい、フォークは高めからストライクゾーンに落とすイメージで投げていたので、プラスのリリースアングルになっていました。あとは、ラプソードではリリースの左右の角度を示す「ホライゾンタルアングル」という数値もあり、これも参考にしていました。――東海大相模戦で、「いける!」という手応えを掴んだ場面はありますか。吉田 初回の先頭打者です。大塚瑠晏選手(現・東海大/左打者)に初球のカットボールをセンター前に打たれたのですが、インコースに食い込むカットボールにグシャッと詰まった当たりでした。自分がイメージしていた感覚と、相手打者の反応が近いところにあり、「これならいけるかも」と思いました。 吉田悠平 182cm 72kg、右投右打。神奈川県中原区出身。横浜緑リトルシニアから川和高校へ進み、現在は早稲田大学スポーツ科 学部に在籍。準硬式野球部に所属し、ポジションは投手/外野手。 2021.7.20 川和VS東海大相模激闘をプレーバック 9回を迎えるまでのスコアは1-1。川和のエース吉田悠平は、この日のために磨いてきたカットボールを武器に、強打の東海大相模打線を翻弄。2回に許した百瀬和真のソロホームランの1点のみに抑えていた。「ひょっとしたら……」多くの高校野球ファンの頭に川和の大金星がよぎった。だが当時、神奈川県内の公式戦を43連勝していた全国王者の壁は厚かった。東海大相模は7回からエース石田隼都をマウンドへ送ると、石田は試合展開に焦りをみせることなく、圧巻の投球とマウンドさばきで川和への試合の流れを裁ち切り、9回の攻撃へと続く流れを作り出した。好投の吉田も9回に東海大相模打線に捕まり、一気に6点を奪われ試合の行方が決まった。 だが攻撃面でも10安打を放つなど善戦を見せた川和の戦いぶりは、「これと決めて攻めてくるチームには強みがある。あれは勉強になった」と敵将・門馬敬治監督をもうならせた。 (対談後編に続きます) 問い合わせ先 株式会社Rapsodo Japan〒231-0023横浜市中区山下町26-5 LATER 2F TEL:045-319-4871https://ja.rapsodo.com/ 取材・文=大利 実  写真=花田裕次郎 取材協力:早稲田大学準硬式野球部

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