2019年12月に吉崎琢朗監督が就任し、2021年春、2023年夏の甲子園に出場するなど、長野県内でもトップクラスの成績を残している上田西。またこの間に高寺望夢(2020年阪神7位)、笹原操希(2021年巨人育成4位)、そして横山聖哉(2023年オリックス1位)がドラフト指名を受けました。また明星大、TDKを経てプロ入りした権田琉成(2023年オリックス7位)も吉崎監督がコーチ時代に指導した選手。そんな勝ちながらプロへも選手を続々と輩出している上田西のこのオフの練習をレポートします。2月以降から徐々に敏捷性も高める今年の高校野球で大きなトピックスと言えば使用できる金属バットの基準が大きく変わったことだ。新基準のバットは反発力が弱く、また芯を外した時は木製バット以上に打球が飛ばないと言われており、戦い方に大きな影響が出てくると言われている。まずはそのあたりの対策から聞いた。吉崎「バッティングに関しては特に大きく何かを変えていないですね。基本的に以前からこの時期は木製のバットを使って練習しているので、それでしっかり打つことができれば新しいバットにも対応できるのかなと思っています。むしろ守備の方がこれまでの感覚とはずれると感じていて、そっちの方が大変ですね。打球も飛ばないし、打球速度も遅くなるし、あとゴロで外野を抜けていくような打球は天然芝ではほとんどありません。打球音も全然違います。守備位置も含めて、それに慣れる練習はしています」 取材をした当日はランニングメニューが終わった後に、ポジションごとに分かれての練習とトレーニングという内容だった。外野手も内野手も守備練習は実際のポジションについて行っていたが、受ける打球はノックではなく、コーチや選手が実際に新基準のバットを使って打ったもので取り組んでいたのだ。様子を見ているとやはり思ったより打球が伸びず、感覚のずれを調整する必要があるように見えた。春までにどこまで慣れることができるかというのは大きなポイントとなりそうだ。技術練習以外ではトレーニングについてもあらゆるメニューをこなしているように見えたが、昨年ドラフト1位で指名された横山も高校で見違えるほど体が大きくなっており、その効果は大きかったという。そしてただ体を大きくするだけでなく、それ以外にも気をつけている部分があるそうだ。「単純なウエイトトレーニングももちろんやりますし、12月から1月の間は頻度も増やして体を大きくすることを重点的にやります。ただそれでも動けなければ意味がないので、2月以降から徐々に敏捷性も高めていくようなファンクショナルトレーニングの割合を増やしていきます。もちろん冬の間だけでなく、年中そういうことはやっていますけど、腰を据えてできるのはこの期間ですね。どうしても個人差があるので、チームで絶対全員がここまでできるようにというような数字目標は決めていませんけど、スポーツメーカーさんの測定を定期的に行っているので、個人でそれぞれ目標を定めてやっています。あと体重も個人で目標設定しています。オフシーズンは保護者の方が順番で食事を作ってくれて、白米の量は1食あたり900グラムは食べようということは言ってますね。横山は1100グラムくらいは言わなくても食べていました」この日もランニングが終わった投手陣から食堂で昼食をとっていたが、早い選手はあっという間に900グラム以上を完食しており、食事に対する意識の高さも感じられた。 上田西にとって、トレーニングという意味で大きな助けになっている存在があるという。それは吉崎監督の兄で、トレーナーとして活動している吉崎正嗣氏だ。「兄はサッカーをやっていたので、最初はJリーグのチームとかでトレーナーをしていたんですね。それでかかわっていた選手が海外に行くようになったので、ドイツに行ってサポートしたりしていました。その後、一回日本に帰ってきたんですけど刺激が足りないと言ってまたアメリカに行きまして(笑)。サッカーだけじゃなくて野球選手のサポートやゴルファーのツアーについて行ったりもしています。日本に帰ってくる時はうちに来てもらって、年に1回か2回程度ですけどトレーニング指導をしてくれています。特にトレーニング中も普段も重視しているのが呼吸ですね。ちゃんとした腹式呼吸をやること。そうしないとトレーニングの効果も上がらないし、しっかり腹式呼吸をすればリカバリーも早くなる。兄いわく、横隔膜を鍛えると。数値とか効果に見えづらい部分ではあるんですけど、そのあたりも指導してもらっています」この日、トレーニングを行っている選手たちからも、呼吸について意識しているという話はでており、チームに浸透していることは間違いないだろう。「成長」を自分で感じると、自ら取り組むようになる吉崎監督がトレーニング、技術練習ともに重視しているのは選手が自らの意識で取り組むようにどう仕掛けていくかだという。「時にはやらされる練習も必要だと思います。ただそれだけだとやっぱり効果も限られますし、選手の自信に繋がらないと思うんですね。うちは練習を見ていても分かると思いますけど、ガチガチに全てこちらがやらせるという感じではありません。ただ、選手が実感として成長できると感じると、自ら取り組むようになるので、それをどう感じさせてあげるかが大事だと思います。今年の3年生も本当によく取り組んでいて、それが結果にも繋がりました。今の2年生もそれを見ているので、良いサイクルで回っていけばいいかなと思いますね」昨年の秋は北信越大会の初戦で敗れて選抜出場は逃したものの、県大会では優勝を果たしており、新チームもしっかり結果を残している。春以降、さらに力をつけた上田西がどんな戦いを見せてくれるかにぜひ注目してもらいたい。(取材:西尾典文/写真:編集部) 関連記事 【上田西】吉崎琢朗監督|技術だけ教えようとしてもチームは強くならない2024.2.10 学校・チーム 【創価】堀内尊法監督|環境が乱れると、心も乱れる2024.1.31 学校・チーム 【創価】堀内尊法監督|伝えても動かなかったら、伝えてないのと一緒2024.1.20 学校・チーム 【市立船橋】海上雄大監督|部長時代に感じた試合当日の違和感、監督に共有しなかった後悔2024.1.4 学校・チーム 【市立船橋】海上雄大監督|大事なことは「ミーティング」でしっかり伝える2024.1.13 学校・チーム 【聖光学院】斎藤智也監督|屈辱的な大敗から学んだ「パワーアップ」の必要性2023.12.15 学校・チーム 【近江】多賀章仁監督|「勝った」と油断・・・手痛い逆転負けが監督としての出発点2023.12.6 学校・チーム 【享栄】大藤敏行監督|仕掛けなかった、挑戦しなかったことに対する悔い2023.11.24 学校・チーム 【履正社】夏に勝つ為に必要になる、複数投手の育成2023.11.10 学校・チーム 【明豊】川崎絢平監督|初めての甲子園で痛感した、事前対策の重要性2023.11.1 学校・チーム 【日大三】三木有造監督の失敗と後悔、2006年西東京大会決勝での後悔2023.7.27 学校・チーム 【広陵】進化する名門、Instagramで「野球の楽しさ」発信2023.7.25 学校・チーム 【山梨学院】吉田洸二監督|「万全の準備」で臨むことの大切さを学んだ、初戦敗退2023.7.22 学校・チーム
元記事リンク:【上田西】「成長」を自分で感じると、選手自ら取り組むようになる