【土浦日大】小菅勲監督|選手をよく観察、「できなかったこと」ではなく「できたこと」を言ってあげる

【土浦日大】小菅勲監督|選手をよく観察、「できなかったこと」ではなく「できたこと」を言ってあげる

現役時代は取手二で夏の甲子園優勝を果たし、監督としても下妻二、土浦日大を甲子園出場に導いた小菅勲監督。前編では若い頃の失敗から現在の指導に生かしていることを紹介したが、後編ではさらに昨年夏の甲子園で勝ち進めた理由などを聞いた。「できなかったこと」ではなく「できたこと」を言ってあげる記事前編はこちら→ 昨年夏が監督して5度目の甲子園出場となった小菅監督。それまでの4回はいずれも初戦敗退と勝利には縁がなかったが、昨年は初戦の上田西戦を延長10回タイブレークで制すると、その後も快進撃を続けてベスト4に進出している。それまで4回の甲子園とはいったい何が違っていたのだろうか。「それまでの4回と違っていたのはまず本当に心から楽しんだことだと思います。今回もまた勝てないんじゃないかというのも多少はありましたけど、それを吹っ切ってくれたのは選手たちですね。甲子園は良く悪くも選手が変わっちゃうんですね。例えばそれまで130キロちょっとしか出ていなかったピッチャーが甲子園でいきなり140キロ出たというのもありました。2009年の明豊戦はそれで逆に打たれたんですけど(笑)。でも去年の夏は試合前に色々データ渡してミーティングをやって、こうやっていこうと言ったことが初回からできたんですね。普段と全く変わらなかった。ランナーが出たら走れるぞとは伝えていたんですけどいきなり走って、次に出塁した選手も走って、本当に言った通りできているなと思って自分も楽しませてもらいました」これまでとは違い、選手が普段通りのプレーをできたことが大きいと話す小菅監督だが、監督自身もこれまでの甲子園とは違っていた部分があったという。「甲子園のベンチって他の球場ではありえないんですけど、すぐ後ろにお客さんがいるんです。これが自分は嫌で嫌でたまらなかったんです(笑)。何とも居心地が悪くて、サインを出していてもなんかじろじろ見られてばれているんじゃないかなと思っていました。それが去年は全くそんなことを感じなかったんですね。多分自分の気持ちの持ちようだと思うんですけど。改めて後ろ振り返ってみても、お客さんは自分のことなんか見てないんですよ。木内(幸男/前常総学院監督)さんはいつも『甲子園行ったらあの雰囲気でやるしかないんだよ』と言っていたんですけど、5回目でやっとそれが分かった気がしました」監督自身がそのように感じていたことが選手にも自然と伝わり、それが普段通りのプレーに繋がった部分もあったのではないだろうか。前編では指導者としてのアップデートを意識しているという話だったが、その具体例についてもこう話してくれた。「一番の変化は『言わなくていいことを言わなくなった』こと。もしくは『言い方を変えた』ということですかね。例えば練習をチンタラやっていたら『チンタラするな!』って言いたくなるじゃないですか? そうじゃなくてまず『何でチンタラしているんだろう?』と考えるようになりました。疲れている? 何かがおかしい? じゃあそれは何なのか? ということですよね。それで様子を見て、大体は次の日とか次の週にはしっかりするんですよ」そこで監督から何かを言われていたら、選手達の気持ちも落ちるのだと言う。「自分も休みの日に珍しく家にいて、庭の草刈りをしようかなと思いながらちょっとくつろいでいたら娘から『お父さん、庭の草刈りしてね』と言われて腹が立つんですよ。今やろうと思っていたのにと(笑)。だからこの前もグラウンドのトイレを見ているときれいな日ときれいじゃない日があったんですね。交代制でやっていますから、ある特定のグループはしっかりやっているんですよ。それに気がついたので、きれいだった日に全体のLINEに『今日はトイレがきれいだったね』と送ったら、他の日もきれいになったんですね」できなかったことではなく、できていたことを言われると、選手達も『またやろう!』という気持ちになる。「だから私はそうやって選手の色んなところを観察するのがまず仕事だと思います。プレーでも選手の変化に気づいて、良くなった点を『前と比べてこう変わったけど意識してる?』とか声をかけると選手も喜んで色々話してくれます。上手くなる選手ほどそうやって考えながらやって、見てほしいと思っていますね」人気漫才師から学んだ選手達との関係性こちらとの会話で出てきた本のタイトルについても小菅監督はメモを取っており、そういう姿勢からも指導者としてアップデートしようという意識が強く感じられた。また、そうやって学ぶ材料としてお笑いから心理療法まであらゆる話題も出てきた。「さっきもノックの時に自分の上をボールが飛んでいる話をしましたけど、最近の高校生は保護者からも上から押し付けられるのではなくて、子どもファーストで育てられてきていると思うんですよね。それなら指導者もそうした方がすんなり受け入れられやすいはずです」そう思えるようになったきっかけは人気漫才師の漫才だった。「“ぺこぱ”から学びましたね。ツッコミの方は何をされても受け入れますよね。例えば漫才のなかで事故に遭ったとしても『なにしてんだよ!』ってツッこむのではなく『事故があっても生きているだけで良かった!』みたいな、あれね(笑)。あれを見ていて本当に自分は腹落ちしたんですよ。監督だから俺の方が偉いんだぞというのがまずおかしな話なんですよね。あと最近勉強したのは認知行動療法というものですね。勉強したと言っても本を読んだだけですけど、ある状況になった時にそれをどうとらえるかとその後の行動にどう影響が出るかということに注目したものです。メンタルトレーニングとは違うんですけど、そういうことを知っておいたことが甲子園で普段通りにできたことにも繋がったかもしれませんね」2020年にはコロナ禍であらゆる大会が中止となり、大変だったことも当然多かったというが、そのことも現在のような指導方針に拍車をかけた部分があったそうだ。「コロナ禍になって、なかなか全体で練習もできなくてということをみんな経験しましたから、より一層言われたことをやるんじゃなくて、逆に自分でやらないといけないということを感じた子が多かったんじゃないですかね。今年高校3年生、2年生の世代は中学の前半でそういうことを経験してきたわけですから。あと自分もそうですけど、本当に普段通り野球ができていることのありがたみを改めて感じましたよね。そういう感謝の気持ちを持てるようになったのも以前との変化かなと思います」取材当日の練習は2年生のスポーツクラスが修学旅行で不在のため、比較的軽めにメニューだったが、それでも「観察することが仕事」と語るように、小菅監督からの指示は非常に少なく、その中でも選手たちは監督の視線を過剰に意識することなく練習に取り組んでいる様子が感じられた。また高校の野球部としては異例となるチーム紹介ムービーも作成し、YouTubeに公開している。今後もこのように指導者、チームともにアップデートを繰り返す学校が全国に増えていくことを期待したい。(取材・文:西尾典文/写真:編集部) 関連記事 【土浦日大】小菅勲監督|就任直後に招いた選手達の反発と「傾聴する姿勢」2024.2.24 学校・チーム 【上田西】吉崎琢朗監督|技術だけ教えようとしてもチームは強くならない2024.2.10 学校・チーム 【創価】堀内尊法監督|環境が乱れると、心も乱れる2024.1.31 学校・チーム 【創価】堀内尊法監督|伝えても動かなかったら、伝えてないのと一緒2024.1.20 学校・チーム 【市立船橋】海上雄大監督|部長時代に感じた試合当日の違和感、監督に共有しなかった後悔2024.1.4 学校・チーム 【市立船橋】海上雄大監督|大事なことは「ミーティング」でしっかり伝える2024.1.13 学校・チーム 【聖光学院】斎藤智也監督|屈辱的な大敗から学んだ「パワーアップ」の必要性2023.12.15 学校・チーム 【近江】多賀章仁監督|「勝った」と油断・・・手痛い逆転負けが監督としての出発点2023.12.6 学校・チーム 【享栄】大藤敏行監督|仕掛けなかった、挑戦しなかったことに対する悔い2023.11.24 学校・チーム 【履正社】夏に勝つ為に必要になる、複数投手の育成2023.11.10 学校・チーム 【明豊】川崎絢平監督|初めての甲子園で痛感した、事前対策の重要性2023.11.1 学校・チーム 【日大三】三木有造監督の失敗と後悔、2006年西東京大会決勝での後悔2023.7.27 学校・チーム 【広陵】進化する名門、Instagramで「野球の楽しさ」発信2023.7.25 学校・チーム 【山梨学院】吉田洸二監督|「万全の準備」で臨むことの大切さを学んだ、初戦敗退2023.7.22 学校・チーム

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