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岡山城東から愛媛大という経歴ながら、レベルの高い神奈川での指導者を志して教員採用試験に合格し、現在は県立高校で屈指の強豪である相模原で指揮を執っている吉井大樹監督。前編ではこれまでに赴任した二校で学んだことなどを紹介したが、後編では前任の佐相眞澄監督からどのようにチームを引き継ぐことになったのか、現在のチームで何を大切にしているかなどを聞いた。前編はこちら→ 昨年4月に相模向陽館から相模原へ異動となった吉井監督。当時チームを率いていたのは公立の名将として県内でも有数の指導者である佐相監督であり、その下で学べることを楽しみにしていたという。しかし待っていたのは思わぬ事態だった。「秦野曽屋では2年目から監督で、次の相模向陽館では昼間定時制の学校ということでどうしても野球以外のことに時間がとられることが多かったです。そういうこともあって、相模原では佐相先生の下で色々学べるのを楽しみにしていました。ただ夏の前から体調が優れないということで、夏は何とかベンチに入ってもらったという感じでした。秋ごろからは治療のために1週間まるまるグラウンドに来られないということが増えて、指導を続けることが厳しいということで12月に正式に退任が決まりました。1月からは自分が引き継ぐことになりましたが、まさかこんなに早く監督になるとは全く思っていなかったです」 佐相監督は今年1月24日に逝去。佐相監督の下で学ぶことができた時期はわずかだったが、それでもあらゆることが勉強だったという。「佐相先生は常々私学に対しても打ち勝つということをおっしゃっていて、実際にそのためにどんな練習、トレーニングが必要なのかということを常に考えていました。その信念は身近で見ていても凄いなと思いましたし、選手たちが力をつけていく様子も目の当たりにすることができました。それは自分にとって大きな財産ですね」 ただその一方でいきなり監督になったことの苦労もあったのではないだろうか。その点について、吉井監督はこう話してくれた。「相模原は佐相先生の野球というブランドがもうできていましたし、選手もそこでやりたいと言って入ってくる子が多いです。それを引き継ぐというのはやはり難しさがありました。進学校ですので、勉強にとられる時間も多く、なかなか全体練習の時間も長くとることができません。その中で結果を出すというのは改めて大変なことなんだなと感じています。いかに短い時間で効果を出すかというのは常に考えていますね」ただ佐相監督が退任したことで全てがゼロになったわけではなく、受け継がれている部分ももちろんある。この日の練習を見てもレギュラーではないメンバーも鋭い打球を飛ばしており、打ち勝つ野球は健在という印象を受けた。またそこから加えて新たな相模原を築いていくために取り組んでいることもあるという。「佐相先生のバッティング理論は素晴らしいものがあって、それを自分も多少なりとも学んで引き継いでいるつもりです。自分なりに考えているのは、やはり勉強もできて考える力のある子たちが多いので、その力をもっと伸ばして引き出したいということです。相手との駆け引きもそうですし、その瞬間、瞬間で考えられる速さとか判断などですね。サインプレーなども色々模索しながらやっています。ただこの秋の桐光学園戦(3対7で敗戦)では、そのあたりもまだ県内トップの私学とは差があると感じました。守りも相手との駆け引きでどう失点を減らすか、攻撃も打てない時にどう点をとるか、そういったことももっと伸ばしていきたいですね」取材当日は学校から横山公園の野球場を使える日ということで、実戦形式の練習も多く行っていたが、攻撃のサインを選手が出すなど、場面に応じたプレーの練習を多く行っていたが、これも考える力のある選手の能力を引き出して、短い時間の練習で効果を上げるための方法として有効な取り組みのように感じられた。また、吉井監督は数学科の教員とのことで、進学校の相模原では授業の面で大変な部分もありそうだが、それもプラスにとらえているという。「体育教員の方に比べると、体の動き作りとかそういう部分の知識は及ばないかもしれませんが、逆に体育じゃないから良い面もあると思います。数学の授業で面倒を見るうえでその子の考え方とかも分かってくる部分もありますし、野球で言えばデータの生かし方とかもありますね。今度1年生の男子生徒で選手ではなくマネージャーで入部したいという子もいて、データ分析なども指導しながらやってもらえると面白いかなと思っています。あと進路にも大きくかかわってくる教科なので、それを一緒に取り組めるというのもやりがいはあります」最後に吉井監督の体制となった相模原野球部のモットー、どんな野球部を目指していきたいかということを聞いた。「目標は甲子園出場というのはぶらさずにやっています。そのためにということで、少し仙台育英さんの真似みたいになってしまいますが『甲子園から招待されるようなチーム』を目指そうということですね。野球だけじゃなくて当然勉強も、それ以外の学校生活も手を抜かずにしっかりやる。そういうことが最終的に野球にもつながると思っています」(取材:西尾典文/写真:編集部) 関連記事 【県立相模原】吉井大樹監督|定時制野球部で学んだ、子どもと向き合うことの大切さ2025.11.5 学校・チーム 【あの球児、今何してる?】鍛冶友佑(県立相模原―中央大学)2021.12.8 選手 『打撃伝道師 神奈川から甲子園へ――県立相模原で説く「コツ」の教え』バッティングの考え方と技術論2020.5.12 企画 『打撃伝道師 神奈川から甲子園へ――県立相模原で説く「コツ」の教え』を紐解く4つのキーワード2020.5.11 企画 【県立相模原】進学校では時間が重要、学校の核になる部活へ2019.12.18 学校・チーム 【県立相模原】佐相眞澄監督から学ぶ強豪・私立と互角に戦うために必要なこと2019.12.17 学校・チーム 【時短テクアンケート】県立相模原/履正社/伊万里2018.11.8 学校・チーム 【県立相模原】経験に裏付けされた佐相監督の打撃理論と引き出しの多さ2017.8.3 学校・チーム 【県立相模原】佐相監督「少年野球の時からしっかりしたバッティングを教えてもらいたい」2017.8.2 学校・チーム 【県立相模原】鍛治主将「目指すは甲子園と外交官」2017.5.22 選手 【県立相模原】佐相眞澄監督の打撃理論と打撃練習(後篇)2017.5.19 学校・チーム 【県立相模原】佐相眞澄監督の打撃理論と打撃練習(前篇)2017.5.18 学校・チーム
元記事リンク:【県立相模原】吉井大樹監督|健在の「打ち勝つ野球」、いかに短い時間で効果を出すか
