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高校野球の頂点に辿り着いた名将たちにも、失敗や後悔、苦い敗戦があった——。昨年発売された『甲子園優勝監督の失敗学』(KADOKAWA)の中から、高校野球指導者の方に参考となる部分を抜粋して紹介します。今回は東洋大姫路・岡田龍生監督の章の一部を紹介します。2022年4月から、母校・東洋大姫路の監督に就いた。取材に訪れた日、約束の時間よりも早く着いたため、グラウンドの周りを歩いていると、「今日のメニュー」が書かれたシートが目に留まった。何時からウォーミングアップが始まり、キャッチボール、ノック、バッティング、トレーニングが行われるか、その日の流れが開始時間とともに細かく書かれていた。チームを4班に分けて、1・2班がウエイトトレーニングをやるときには、3班がバッティングに入り、4班はそのサポートをする。こうしたことも、シートを見れば、誰でもわかるようになっていた。「予定表見ました?あれはぼくが来てから作ったもので、今までは一切なかったんです。だから、今日どんなメニューをやるのか、選手は誰もわかっていない。わかっていないから、先を読んで準備をすることもできない。もうそういうところからのスタートでした」これまでは、指導者の機嫌によっては、ノックだけで終わってしまうこともあったという。ミスが続出すると、何度も何度もやり直しとなり、ノックが延々続く。「高校野球あるある」でもあるのだが、こうなると、予定も何もなくなってしまう。次が読めなければ、主体的に行動することも難しい。「履正社は帰りのバスの関係もあり、練習を延長することは絶対にできない。だから、何時から何時までとノックを決めたら、その時間で終わるように計算しながら打っていました」決められた時間の中で、選手の技術を上げていく。それも、指導者の力量と言えるだろう。「こっちに来てからは、クラスルームというGoogleのアプリを使って、生徒たちに事前にメニューを送るようにしています。班編成も1週間に1回入れ替えをしているので、そのたびにクラスルームで共有しています」驚いたことに、練習試合の予定も直前にならなければわからなかったという。「選手のほうから、『練習試合の日程が知りたい』と言ってきたことがあって、『今まで知らされてなかったんかい』って、こっちが驚きました。毎月25日までには翌月の予定表を出して、選手に送るだけでなく、保護者にも配るようにしています。履正社のときは通いだったので、選手に紙で渡しておけば、親にも伝わっていたんですけど、ここは通いの子もおれば、寮の子もおるので」履正社では当たり前になっていたことが、東洋大姫路ではまったくできていない。そこに大きなギャップを感じたという。驚きはまだまだある。「ぼくがいたときの東洋大姫路と変わっていないんですよ。どつかれるようなことは、さすがにもうないですけど、完全に指導者からの一方通行で、選手はただ指示を待っているだけ。生徒の反応が遅いんですよね」就任当初、岡田監督からの問いかけに、「はい」「すいません」と返事をする選手がほとんどだったという。「あとでわかったんですけど、『監督にこう言われたら、こう答えなあかん』という決まり事みたいなものがあって、それを教え込まれていたみたいです。会話が成り立たない。試合でアウトになって返ってくると、監督の前まで来て、『すいません』と頭を下げることがあって、『何か悪いことしたん?』って。悪いことをしたことに対する『すいません』ではなくて、決まった言葉をたいして考えずに、口にしているだけ。正直、まだこんなことしてるんか……と思いましたね」自分が考えていることを言葉で表現しなければ、相手には伝わらない。定期的にミーティングを開き、会話をすることの重要性を伝えたという。「こっちが『何で?』『なぜ?』と質問しているときに、『はい』とか『すいません』という返事はおかしいやろう?『こんなことを考えていました』とかそういうことを言えないと、コミュニケーションが取れない。社会に出たときに、必要とされない人間になってしまうぞ。『はい』と言われたら、会話が続かないと思わん?」履正社の選手たちは、指導者からの問いに、自分の言葉でよく喋しやべっていたという。それだけ、考えて野球をやっていた証あかしと言える。「こっちに来てからは、とにかく喋らせる機会を増やすようにしています。シートノック中に何か気になるプレーがあれば、『なぜ、そういうことが起きた?』と聞いて、間違っていてもいいので、答えさせる。何か答えがあれば、それに対して、こっちも何か言うことができるので。頭を使って野球をしてほしいんですよね」(続きは書籍でお楽しみください) Amazonはこちら 「甲子園優勝監督の失敗学」大利実KADOKAWA2024/7/31発売 関連記事 激しいチーム内競争のメリットとデメリット|甲子園優勝監督の失敗学(仙台育英・須江航監督)2025.10.16 学校・チーム 「自立とは自ら考え想像し、決断して実行すること」|甲子園優勝監督の失敗学(花咲徳栄・岩井隆監督)2025.9.24 学校・チーム 甲子園優勝監督の失敗学|日大三前監督・小倉全由2025.9.12 学校・チーム
元記事リンク:練習メニューを示すことからスタート|甲子園優勝監督の失敗学(東洋大姫路・岡田龍生監督)
