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2025年の秋季東北大会で準決勝に進出し、センバツ出場を視野に入れる東北高校。7年ぶり3度目の指揮を執る我妻敏監督は、20代、30代、そして40代と、世代を超えて母校の指導に当たる異例のキャリアを持つ。後編では、就任4カ月で見えてきたチームの様子と、掲げる指導論を紹介する。「勝つことを目的にしない試合はルール違反」前編はこちら→ 我妻敏監督は就任直後のファーストミーティングで、選手たちにチーム作りの指針をPDF文書にまとめて配布した。タイトルは「勝ちと価値を求めて」だ。冒頭にまず掲げられたのは「公認野球規則1・00、試合の目的」の文章だった。公認野球規則、1・05には「勝つことを目的とする」と書かれてある。我妻監督は「つまり、試合は必ず『勝つこと』を目的に行わなければならないと定められているのです」と説明した。そこから話は方法論へと進む。ゲーム性の特徴や、戦略、作戦、戦術を説き「これからの練習は走塁、守備、打撃の順で鍛えていく」と宣言した。フリー打撃や、ケース打撃、練習試合に対する心構えも細かく示した。 東北大会3位という戦績に甘んじず、夏の頂点を目指す選手たちの挑戦は続く 次の文書では「生活指針」を示した。礼儀・挨拶・掃除・返事を「躾け」として明文化。「指導は生徒が主体、正解が一つではないが、躾は躾ける側が主体。指導と躾を分ける」と話した。指導と躾の違いを、我妻監督はこう説明する。「野球『を』学ぶのか、野球『で』学ぶのかの違いです。技術だけを学ぶのなら、野球スクールで学べばいい。でも部活動はそうじゃない。野球を通じて人間性を学ぶことが部活動なんです」。野球の技術向上だけが目的ではなく、実社会でどう生かすかを選手たちに想像させた。「カバーリング」は「約束を守る」ことにつながる「教材」と捉え、選手の人間的成長を促していった。 考えて、勝つから、野球は楽しい 遊撃手の笠隼人(2年)は「今までの自由に自分で考えてやる野球から、具体的に勝つための練習方法や考え方を教えてくれる。勝つとやっぱり楽しいし、勝利への意識がより強くなった」と話す。中には「監督が先生だから、学校生活でも緊張感が出ています。授業で眠くなっても寝ないように頑張っています!」と本音を話してくれた選手もいた。佐藤前監督が築いた「楽しむ野球」の土台。その上に、我妻監督が「勝つための方法論」を積み重ねた。一見すると対照的に見える二人の指導哲学だが、実は「選手が主体的に動く」という根幹は共通している。前監督から受け継いだ自主性を、我妻監督は「勝利」という明確な目標に向けて昇華させているのだ。 専門のトレーナーによる筋力トレーニング。野球につながるパワーを鍛えている 新チーム結成時に選手たちが決めた目標は、県大会優勝、東北大会優勝、神宮大会優勝だった。東北大会準決勝で花巻東に敗れたあと、チームはすぐに次の目標設定を行ったという。「ここから100日間(1月30日まで)」「春季大会まで」「夏の大会まで」という3段階の目標だ。これは、センバツ出場という外部からの期待に左右されるのではなく「やることは変わらない」という根本的な姿勢を統一するためだった。「自分がここからどうなりたいか?を考えさせて、個人、チームの計画を明確化しました。ここは時間をかけましたね。2年生全員と個人面談をして、じっくり話をしました」と我妻監督。100日後の1月30日はセンバツ出場校の発表日となる。しかし、そこに向けて「センバツ」という言葉で煽ることはせず、かといって遠ざけすぎず。フラットな意識を持つために敢えて「100日後」という言葉を使った。「バランス」がチームの強み バント、エンドラン、スクイズ。バリエーションの多い戦術は練習量が土台になっている 新生東北のストロングポイントは「バランス」だという。「東北大会3試合で1失策だけでしたし、ピッチャーも複数投げられて、打線もどこからでも打てる。誰から打順が始まっても得点することができます。飛びぬけた選手がいなくても、全員野球で試合に勝つことができるチームだと思います」。5投手を適材適所で起用して3試合で5失点。打力は33安打18得点を挙げた。派手さはないが、確実に勝利を積み上げていく―。それが新生東北のスタイルだ。20代で初めて甲子園に導き、30代で再び頂点を目指し、そして40代。充電期間の7年間で得た知見を携え、我妻監督は母校に戻ってきた。大学野球、社会人野球、少年野球。様々なカテゴリーの野球を見てきた指導者の目には、高校野球の本質がより鮮明に映っているのかもしれない。センバツ出場校の発表まで、あと50日あまり。グラウンドでは今日も、選手たちが「100日後」に向けて汗を流している。新生・東北高校の挑戦は、まだ始まったばかりだ。 (文・写真/樫本ゆき) 関連記事 【東北】前監督の「楽しむ野球」を結果に繋げた!我妻監督率いる東北高の現在地2025.12.15 学校・チーム 【東北】「楽しい」と「緩い」は同じではない、大事にしている「道徳の時間」2023.1.19 学校・チーム 【東北】選手の意思を尊重、成長する機会に蓋をしない〝ひろし”イズム2023.1.10 学校・チーム 名門大から奨学金オファーが殺到!元高校球児・西田陸浮さんに聞くアメリカ野球留学2022.5.19 PR 【東北】準決勝進出!強さを支える投手陣の体幹トレーニング!2017.7.30 トレーニング 【東北】ナツタイを制するのは俺たちだ!121人の力で連覇を狙う!2017.7.28 学校・チーム 【全国スイングスピード選手権】東北高校が挑戦!2017.6.13 企画 【東北高校】球児が自発的にやるケースもある!? 野球部員をひとつにした“五厘会議”2016.6.24 学校・チーム 【東北高校】地区第5代表から東北大会Vへー。王座奪回に燃える東北高の挑戦(後編)2016.6.17 学校・チーム 【東北高校】地区第5代表から東北大会Vへー。王座奪回に燃える東北高の挑戦(前編)2016.6.17 学校・チーム 【東北高校】背番号発表当日。歓喜の様子をレポート2016.6.8 学校・チーム 【東北高校】2ケタ背番号の仕事は重要だ(鈴木コーチ)2016.6.7 学校・チーム 【東北高校】•我妻監督流「背番号獲得の3条件」(後編)2016.6.6 学校・チーム 【東北高校】我妻監督流 「背番号獲得の3条件」(前編)2016.6.6 学校・チーム
元記事リンク:【東北】佐藤前監督と共通する「選手が主体的に動く」という根幹部分
