飛ばない時代に「打」で勝つ明秀日立のバッティング論

飛ばない時代に「打」で勝つ明秀日立のバッティング論

2026年のセンバツ大会から高校野球にもDH制が導入される。2024年春の低反発バット完全移行に対応してきた選手たちが、どう得点力をアップさせるかが注目されている。守り勝つ戦い方が主流になりつつある中で、あえて「打」で勝つのが明秀学園日立だ。打撃指導に定評のある金沢成奉監督が、数値的データを活用しながら打撃理論を進化。その根底にあるのは「体・心・技」の順で選手を育てる独自の育成術と「野球で人生は変えられる」という信念だ。飛ばない時代に、なぜ強打者が育つのか。その秘技を明かした。バッティングほど楽しく、難しいものはない。DH制で、野球がダイナミックに2026年センバツから高校野球の世界でもいよいよDH(指名打者)制が導入されます。私はこの流れを大いに歓迎しています。 私の野球観において、DH制は大きなプラスです。これまでの高校野球では、投手が打撃練習や走塁練習に時間を割く必要がありましたが、特化した練習ができるようになれば、投手はより投球術を磨き、野手はより打撃を極めることができるようになります。代打や守備固めといった役割だけでなく、純粋に「打撃のスペシャリスト」という10人目の枠ができることは、選手たちの可能性を広げるだけでなく、高校野球をよりダイナミックなものに変えてくれると思うからです。野球というスポーツの中で、バッティングほど楽しく、そして難しいものはありません。サッカーのフリーキックやバスケットのフリースローと違って、3割打てば「好打者」と称賛される。それほどまでに技術の習得が困難だからこそ、理論(ロジック)を追究する面白さがあるのです。私の打撃論において、最も重要なのは「タイミング」です。タイミングとは単に合わせることではなく、打つための「準備」ができているかどうかを指します。ピッチャーが投げてから動くのではなく、自分の動きの中にピッチャーを引き込んでくる。歌舞伎の動きの一つ「見得(みえ)」のように、指先から足先まで神経を研ぎ澄ませ、完全に同調した状態でボールを待つ。具体的な技術として私が重視しているのが「割れ(トップ)」と「時間・距離」の概念です。バット(円柱)とボール(円球)が衝突する際、その接地する面積をいかに大きく、長く確保できるかが打球を飛ばすための重要な要素になります。トップ(割れ)を深く作ることができれば、ボールとの距離が取れ、捉えるための時間を稼ぐことができます。 「良い打者はバットが後ろから出てくる」とよく言われますが、キャッチャー側から見てボールが一瞬消えるように感じるほど、バットをボールの軌道に入れていく。教え子の一人である、巨人・坂本勇人の「外角の球を引っ張る」打撃などは、まさにこの「後ろから入れる」技術の極致です。低反発バットの導入により、高校野球からは確かに本塁打が激減しました。かつてのように力任せに振ればスタンドに運べる時代ではありません。しかし、私の打撃理論そのものが変わることはありません。理論は不変ですが、選手への「伝え方」はより丁寧に、わかりやすく、時間をかけて指導する必要があります。チームで導入しているトラックマンは、打球を可視化できるとてもいい機器です。ドジャース・大谷翔平選手の打球速度は190㎞ /h、角度30度を越えることがありますが、高校生の場合、打球速度が150km/h出ない選手が角度を上げても、このバットではホームランにはなりません。その場は低いライナーを狙うなど、個々の特性に合わせた指導を徹底しています。金属バットの反発力に頼るのではなく、体としなりを使ってボールを「乗せる」技術があれば、低反発バットでも十分に外野の頭を越すことは可能です。 素振りでは深いトップを作ることを意識してスイングをする 折り畳みゲージを使ったフリー打撃は4カ所。変化球打ちを課題にしたこの日、鋭い打球が飛ぶ 専用グラウンドを大きく使ってのウォーミングアップ 練習の最初は心を統一させて全体行進からスタート 過去春夏4回の甲子園出場を記念した石碑が、グランドの上方に建立されている 練習の軸は「体・心・技」の順番で冬の6割はフィジカルトレーニングアスリートの世界ではよく「心・技・体」と言われますが、私の野球では「体・心・技」の順番です。そのために徹底した「体作り」をしています。明秀日立では冬場だけでなく、常にフィジカル強化を重視していますし、長距離走も取り入れています。1・2月は6割がフィジカルトレーニングで、木・金曜に加圧トレーニングやウエイトトレーニングを入れています。同時に食事(食トレ)は炭水化物を中心にしっかり食べ、体を大きく強くする。 このお陰か、30年間の指導歴の中で熱中症や足がつった選手は一人もいません。平日5時間、休日10時間と練習量は多いと思います。泥臭くやり抜く経験が土壇場での精神的な強さを生みます。技術はその先にようやくついてくるものだと思うからです。練習量に関しては、今でも「量の中に質が生まれる」と考えています。単に1000回振るのではなく、正しい形、正しい意識を持ったスイングを積み重ねる。量に裏打ちされた自信がなければ、甲子園という大舞台で自分のバッティングを貫くことはできません。 今年4人のOBがプロ野球界へ打撃で驚かせるチームを作りたい 教え子の中でいま注目されているのが4年連続20本塁打越えを狙う、中日・細川成也でしょう。彼は高校時代、タイミングを取るのが下手くそで、器用な選手ではありませんでしたが、ノーステップでも遠くへ強く飛ばす素質はずば抜けていました。中日に移籍する際、私は東北福祉大時代の教え子である和田一浩コーチ(当時)に「細川をよろしく頼む」と話しました。和田コーチの崩されても打つ、率が残せる打撃の境地に達するにはまだまだ頑張らないといけないですね。今の高校野球界は、自主性や自由という言葉がもてはやされています。しかし、私はあえて「中小企業魂」を持って戦いたいと思っているんです。大企業(私立の超名門校)と同じことをしていても勝てません。 私は今でも丸刈りを貫いていますし、練習時間も長い。それは、厳しい規律と練習量の中からしか生まれない「強さ」があると信じているからです。「バットが飛ばないからバントで繋ぐ」「守り勝つ」それも一つの戦略でしょう。でも野球は点取りゲームなんですから、私はこの低反発時代に「打ち勝つ野球」を追求したいですね。球場に足を運んでくれた観客が、私たちの打撃を見て「ワッ!」と驚き、どよめくようなチームを作りたいです。昨年のドラフトで明秀日立から高卒2名、大卒1名、社会人1名、計4名の教え子がプロ野球に入団しました。「野球で人生は変えられる」。この信念を胸に、これからもロジカルかつ個人に合わせた指導で、次なるプロ野球選手を、そして「真の日本一」を掴み取るチームを育てていきます。 打撃練習中心のこの日。最後には、ランメニューを行い体をいじめ抜く 校内のトレーニングルームで体幹を使ったフィジカル強化にも力を注ぐ 練習の根幹となる「成奉ドリル」。量をこなすことにもこだわり、バッティングの基礎を固める ブルペンでプレートを使った体力強化 <1億円プレーヤー細川選手に続け!4人のOBがNPB支配下指名> 明秀日立の育成力の高さを証明するように、2026年に新たに4名の選手がプロ野球の世界へと羽ばたく。高卒で指名を受けたのは、183cmの恵まれた体格を誇り、パンチ力とミート力が抜群な大型外野手の能戸輝夢選手(外野手・中日4位)と、二塁送球1.8秒台の圧倒的な強肩を武器とする野上士耀選手(捕手・オリックス7位)の二人。また、OBからも即戦力が誕生した。JR東日本を経て指名された髙橋隆慶選手(内野手・中央大・ソフトバンク5位)は、身長186cmの長打力が魅力で、キャンプでも連日の長打を放ち「新人王候補」への期待が高まっている。そして、米大学で最速154kmの左腕へと急成長し、二刀流としての可能性も秘めた石川ケニー投手(シアトル大、ジョージア大・オリックス6位)もプロ入りを果たした。金沢監督の指導で開花した4名のOBがNPBの舞台でさらなる飛躍を誓う。(取材・文/樫本ゆき 撮影/武山智史) 金沢成奉(かなざわ・せいほう) 1966年11月13日生まれ。大阪府出身。太成高(現太成学院大高)、東北福祉大で内野手。2年時より学生コーチ。会社員を経て95年から光星学院(現八戸学院光星)監督。11年夏・12年春夏は総監督として3季連続甲子園準優勝。計8度の甲子園出場を果たす。12年秋から明秀日立監督。坂本勇人(巨人)ほか打者育成の打撃指導力に定評がある。社会科非常勤講師 明秀学園日立高校 ●創部/1996年●監督/金沢成奉●部長/坂口拓也●部員数/50名(マネージャー1名)●甲子園出場/春2回、夏2回1925年(大正14年)助川裁縫女学校として創立。1996年に明秀学園日立高等学校に変更。2018年春、22年春夏、25年夏の甲子園出場を果たす。主なOBは増田陸(巨人)、細川成也(中日)など。

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