大阪桐蔭を倒さなければ甲子園への道が拓けない大阪で、「打倒!大阪桐蔭」に燃える9名の指導者に話を聞いた書籍「『絶対王者』に挑む大阪の監督達」(沢井史/竹書房)。この本の中から、この夏3回戦で大阪桐蔭と戦う関大北陽・辻本忠監督の章の一部を紹介します。ビビらないこと、初回をゼロで抑えること00年代以降は全国的にも常勝軍団となった大阪桐蔭。そして19年に全国制覇を果たした履正社。大阪ではそんな〝二強〟が参加各校の前に立ちはだかる。「よく『大阪桐蔭がいたら大変やな』って言われることもありますが、どこの都道府県にも手強いチームはいますから、そこを乗り越えるためにどの学校も努力はしていると思います。もっと言うと、大阪じゃなくても兵庫や、奈良、和歌山だって大変ですし、東京や神奈川、東北もレベルが高いでしょう。どこの地区にも強いチームはありますから」辻本の長いコーチ生活の終盤以降から、大阪桐蔭が府内でいわば〝独走状態〟になった。履正社も含めて、どう倒そうか、付け入るスキは見つけられるのか。両校の甲子園での試合を見る度に、プレーの傾向なども含めて彼らの一挙一動をテレビで観察している。16年夏前はことあるごとに大阪桐蔭の名前を出してはいたが、今は普段の練習では意識させていない。「高校野球は毎年戦力が限られます。ウチは決して能力が高い選手が集まっているわけではないですからね。どんな相手との試合でも、選手を最高の状態に持っていくのが指導者の仕事。でも、大阪桐蔭のユニホームを見てもビビらず〝僕らもやれる〟と思えるようになるのが大切ではないですかね。対策とか研究より、そもそもそこが大事ではないかと思います。確かにプレーもそうだし、選手の身体つき、投げる、打つ、走るも大阪桐蔭の選手は違いますよ。それでもまず、怯まずに初回をゼロに抑えると、選手はやれるぞという気持ちになります。そういう流れを初回から作ることが大事だと思います」「それにしても、とんでもなかったですね。ホンマに強かったです」辻本監督は優勝したセンバツの大阪桐蔭の戦いぶりを素直に称えた。「全員が1球に集中していて、貪欲に次の塁を狙っている。1人1人の意識の強さをあらためて感じました。でも……こちらとしても戦い方はあると思っています」遠く離れた存在だった西谷監督とは、中学生を視察しに行く場でよく顔を合わせるようになった。「最近は声を掛けていただくこともあります。自分もようやく話していただけるようになったのかなと思います。ですので、こちらも気になることを質問させてもらっています」中学時代の実績で差があろうが、同じ土俵に立てば、そんな過去は関係ない。「何も実績のない子たちが、ああいう学校に勝つってカッコいいじゃないですか。勝ったことで僕が株を上げるとかはどうでもよくて、選手らによかったと心の底から思ってもらいたいですし、将来、それがどれだけの自信になるのかって思うんですよ。そのための普段の練習だということも分かってもらいたい。高校生が部活で活躍して新聞で取り上げてもらえるなんて、普通は考えられませんよね。そういう意味でも、高校野球の中で成功体験を積んでいってほしいんです」「HOKUYO」と胸に刻まれたユニホームは、関大北陽の何よりの誇りだ。この上ないプライドを胸に、復活の夏を必ず刻み込む。次は「あの夏は……」と笑顔で振り返られるように。コーチとして15年、監督となって今夏で8年。辻本監督の指導者としての闘志の火は、今さらに燃え上がっている。 書籍情報 「『絶対王者』に挑む大阪の監督たち」著・ 沢井史竹書房定価1600円+税 Amazonで見る
元記事リンク:「『絶対王者』に挑む大阪の監督たち」辻本忠監督(関大北陽)|ビビらないこと、初回をゼロで抑えること