「友喜力」=「友や家族を喜ばせる力」 そんな人間・選手育成論を掲げ、春5回、夏5回の甲子園出場を果たし、史上最年少の三冠王・村上宗隆をはじめ通算14人のプロ野球選手を輩出した九州学院前監督、坂井宏安氏。そんな坂井氏の書籍から、第三章【 友喜力】の一部を紹介します。「ウチには選手がいない」は絶対禁句 生徒は自分を支えてくれるまわりの人たちのためにと「友喜力」を振り絞っている。一方で、私たち指導者もそんな彼らに対する敬意と愛情を失ってはいけない。社会的に高校生ピッチャーを酷使しすぎだという風潮の中で「1週間500球以内」という球数制限に関するルールが適用され、現在は多くのチームが複数のピッチャーを育てる必要に迫られている。そんな状況下で「ウチは選手がいないから無理」、「人数がいないから複数ピッチャーは作れない」と否定的なことを言う監督さんもいるが、それを言ってはおしまいである。試合に出られる人間がいるなら、複数ポジションを守れるように指導していけばいいのだ。九州学院では「ひとり2ポジションを持ちなさい」と言っている。ピッチャーであっても「外野、ファースト、サードもやってくれ」と言うし、キャッチャーにも「ピッチャーでも内外野どこでもいいから守ってくれるように」と伝えている。ひとりが2ポジションをこなせば、スタメンが9人でも18ポジションで勝負できることになるのだ。「ウチには選手がいない」と言う人ほど「ベスト8に行きたい」と言っているように感じる。また「ウチの選手はダメですよ」という嘆きを耳にすることもあるが、その人は“ダメな子”を“ちょっとダメな子”にまで成長させるだけで、そのチームにとっては大きな進歩なのだということを分かっていないのではないか。そういう指導ができないのか、あるいは“しようとしないのか”は分からないが「ウチには選手がいない」と言って片付けてしまうのは、自らの指導力のなさを周囲に触れ回っているに等しく、そもそも発言自体が生徒に対して失礼だ。そういうネガティブなことしか言わない指導者は「なかなかウチには来てくれないんですよ」と嘆くが、私は“当たり前じゃないか”と思う。子供たちが“この学校で野球がしたいな”と思えるだけのチームを作れていないのだから。愚痴を言う前に、いかに子供たちにとって魅力のあるチームを作っていくかを考えなければならない。いろんな指導方法を学び、複数のピッチャーを育て、ひとり複数ポジションをこなせる選手の育成方法を学べばいいではないか。九州学院は選手を獲ってくる学校ではなく、選手の方から九州学院を選んで来てくれている。長い年数をかけて、ようやく子供さんの方から来ていただけるチームになった。だから、九州学院に来てくれないからどうだとはいっさい思わない。他の学校に行って伸びてくれたなら、それでよかったと思うべきだ。“ウチに来ていたら、ここまで伸ばせてあげられなかったな”と納得すればいいではないか。よその学校に行く子は、縁がなかったということである。それを嘆き、批難すること自体、相手校だけでなく、その子とその家庭に対する敬意に欠けている。そこまで行ってしまうと、もはや「スポーツマンシップの欠如」以前の話かもしれないが……。 Amazonはこちら 【目次】 第一章 創造性 野球、バドミントン、空手、柔道の指導で培った柔軟な発想銚子で学んだ「本気を伝える叱り方」/甲子園に存在する「3つの感動」 ほか第二章 親身 勝利者を育てた坂井流コーチング「怒る」と「叱る」は絶対に必要/長時間ミーティングは指導者の自己満足だ ほか第三章 友喜力 三冠王を育てた九学野球部のスローガン友喜力で掴んだ甲子園8強/「ウチには選手がいない」は絶対禁句 ほか第四章 教え子、村上宗隆 「臥薪嘗胆」、不屈の友喜力で日本の4番打者となった男長打一辺倒のバッターには育てなかった/歴史的56号誕生の背景にあったもの ほか第五章 一芸は身を助く 突出した才能を備えたスペシャリストたち一芸を伸ばす「末續慎吾コーチ」の存在/一芸選手こそ多芸でなければならない ほか第六章 九学野球の深層部分 坂井宏安の「野球論」と「打撃論」相手投手に100球以上投げさせるな!/速すぎるマシンは打たせない ほか第七章 新時代の野球界へ 高校野球、進化への提言「サイン盗み」に守られた選手に未来はない/選手の県外流出に思う、ルールの脆弱さ ほか 書籍情報 坂井宏安 (著)竹書房2023年3月3日発売/1760円
元記事リンク:「ウチには選手がいない」は絶対禁句|九州学院を強豪校に導いた 友喜力