昨夏の甲子園優勝に続き、この春のセンバツ大会でもベスト8まで勝ち上がった仙台育英。そんなチームを率いる須江航監督の著書『仙台育英 日本一からの招待 幸福度の高いチームづくり』(カンゼン)から、第5章「教育者はクリエイターである ー指導論」の一部を紹介します。「教育者はクリエイターでなければいけない」0から1を生み出し、新たなものを創り出す 5月20日には日本高野連から夏の選手権大会の中止が発表され、野球を始めたときから夢見続けていた甲子園でのプレーが、戦う前に絶たれることになったのです。その日の夜、ZOOMでミーティングを開きました。『日本一からの招待』とともに、2020年のスローガンである『真剣勝負』の場さえなくなってしまった中、3年生のGM・菅野友雅が、「日本一の夢は、後輩に託したい」と堂々と語ってくれました。胸中は複雑だったと思いますが、その言葉によって、3年生が進む道が見えた気がしました。私が、コロナ禍でもっとも考えていたのは、『地域の皆さまと感動を分かち合う』という理念とともに、『教育者はクリエイターでなければいけない』ということについてです。世界中で流行し、まだ正体が見えていない感染症となれば、野球だけやっている場合ではないのは誰にでもわかることです。グループLINE を使い、感染症に関する記事やニュースをいくつも送りました。多角的に物事を捉えるために、主婦、会社員、学生など、さまざまな視点からの記事を送るように心がけていました。『教育者はクリエイター』は、秀光中の教員を務めていたときに、猿橋先生に教えてもらった言葉です。「さまざまなアイデアを提示して、0から1を生み出していくのが教育者である」。常に心掛けていることですが、コロナ禍になってから、より強く実感しています。現状を「仕方がない」と思ってしまったら、何も生まれません。自粛生活が続く中、私の心の支えになったことがありました。それは、2011年の東日本大震災後に行われた宮城県中学校体育連盟の会議において、卓球部の先生が、200人近い教職員の前で訴えかけたときの言葉です。「夏の大会は中止」という話でほぼ決まりかけた中、涙ながらに語り始めました。「子どもたちが絶望している今、子どもたちの希望まで奪ってはいけない。やれない理由を教えてください。人手が足りなければ、子どもたちのために教員、保護者も動きます」多くの教員が立ち上がり、涙を流しながら拍手を送っていました。私もそのひとりです。ここから上層部が大会の開催について再考し、夏の大会が行われることになったのです。何事も、「やれない理由」を探すほうがはるかに簡単だと思います。しかし、大人があきらめてしまえば、この先生がおっしゃったように「子どもたちの希望」を奪ってしまうことになります。休校期間中は、ZOOMを活用して監督発信のミーティングを週3日、選手間ミーティングを週4日(3学年を5グループに分けて、各班にキャプテン・副キャプテンを置く)行い、社会情勢に関することや、今やるべきこと、これからどのような気持ちで夏に向かっていくかなど、とことん話し合いました。自主練習の内容は、コミュニケーションツールのSlack で報告し、全員で共有。とにかく、前に前に進むことを大事にしていました。監督として、悩みのひとつだったのが3年生の進路です。例年は、セレクションに参するなどして、大学関係者にプレーを見ていただく機会があるのですが、それが叶いません。春の大会も中止になったため、プレーを披露する場もありませんでした。そこで思い付いたのが、プロモーションビデオ(PV)の制作です。3年生ひとりひとりのプレーをまとめて、1分から3分ほどの映像に編集し、大学の関係者に送るようにしました。初めての試みでしたが、これがきっかけで進学先が決まった選手も多く、0から1を生み出す大切さを改めて実感しました。(続きは書籍にてお楽しみください) Amazonで見る 【書籍情報】 2022年夏 東北勢初の甲子園優勝!「青春は密」「人生は敗者復活戦」「教育者はクリエイター」「優しさは想像力」チーム作りから育成論、指導論、教育論、過去の失敗談まで、監督自らが包み隠さず明かす!『人と組織を育てる須江流マネジメント術』<有言実行!夢の叶え方>基準と目標を明確化 努力の方向性を示す選手の声に耳を傾け、主体性を伸ばすデータ活用で選手の長所・短所を〝見える化"日本一激しいチーム内競争の先に日本一がある高校野球が教えてくれる、本当に大切なことを学ぶ<目次>序章 『日本一からの招待』を果たすために第1章 人生は敗者復活戦―思考論第2章 選手の声に耳を傾け、個性を伸ばす―育成論第3章 日本一激しいチーム内競争―評価論第4章 チーム作りは文化作り―組織論第5章 教育者はクリエイターである―指導論第6章 野球の競技性を理解する―技術論・戦略論終章 幸福度の高い運営で目指す“2回目の初優勝”
元記事リンク:【仙台育英 日本一からの招待】「教育者はクリエイターでなければいけない」0から1を生み出し、新たなものを創り出す