【大分舞鶴】「昭和の日」で作り上げた肉体、チームの一体感

【大分舞鶴】「昭和の日」で作り上げた肉体、チームの一体感

2022年春に悲願の甲子園初出場を果たした大分舞鶴高校。大分県でも屈指の公立進学校でありながら、近年は県大会でも安定して上位に進出。OB選手達も大学のトップレベルで活躍を見せている。急激に力をつけてきた要因を探るべく、グラウンドに足を運んだ。文武両道と安定した強さ学校の創立とともに野球部が誕生して71年。大分舞鶴は、2022年春に悲願の甲子園初出場を果たした。県屈指の公立進学校でもある大分舞鶴は、花園優勝1回、準優勝3回のラグビー部が有名で、野球部といえば、2回戦敗退が当たり前の弱小チームだった。しかし、後に法大へと進学する左腕・益川和馬の出現で状況は一変。2016年秋の8強入りを皮切りに、2017年は春8強、夏4強、秋8強。その後も来秋のドラフト上位候補として期待される常廣羽也斗(青学大)や、新名凌馬(國學院大)ら好投手の出現が相次ぎ、すっかり大分県上位に定着したのだった。常廣がエースだった2019年には、春4強、秋8強。2020年は夏の独自大会で準優勝し、2021年春にはついに春の大分県を制した。そして、夏、秋には立て続けに準優勝。秋は九州大会で大野稼頭央(ソフトバンク)を擁する大島との初戦が雨天コールドゲームとなり、再試合で3-4と惜敗するも、文武両道を推進しながら安定した強さを発揮し続ける近年の実績が高く評価され、見事21世紀枠で選出される運びとなった。チームを率いるのは、2020年秋に就任した河室聖司監督だ。投手出身の河室監督は大分上野丘OBで、3年夏は津久見に敗れて準優勝。高校時代に甲子園出場を果たすことはできなかったが、甲子園に王手をかけながら敗れた者の悔しさは骨身にしみている。「だから、気安く『甲子園』というワードを口に出すことに抵抗がありました。かわりに用いていたのが『県で優勝するぞ』という言葉。2020年の独自大会など、大分舞鶴はあと一歩のところまでは来ていましたが、2021年春に県で優勝したことで間違いなく前進を遂げましたね」「昭和の日」で体作りとパワーアップ壁を乗り越え、殻を破った選手たち。それは河室監督が仕掛けた“パワーマジック”が、功を奏した結果でもあった。選手の能力値はあるものの、試合終盤になってスタミナ切れを起こし、最後まで踏ん張り切れない。それが赴任前に外から見ていた大分舞鶴の印象だった。「本来、公立進学校の多くは私学のパワー野球に対抗するため、技や策に走りがち。しかし、ちまちま1点ずつ重ねたところで、たったひと振りで試合をひっくり返してしまう強豪私学のパワーにはかないません。むしろ、練習時間の限られた公立だからこそ、ピッチャーもバッターも体作りをしっかり行なって、パワー勝負できるようにならないと」そこで河室監督は、トレーニング専門の理学療法士と連携し、選手の心身を徹底的に追い込むトレーニングの日を定期的に設定した。その名も「昭和の日」である。昭和の日は1時間ランに始まり、個人+チームが100本を完全捕球するまで終わらない100本ノック、塁間を行ったり来たりしながら2往復を完全捕球するまで終わらない2本捕りノック、マシンを用いて外野を左右に大きく振るアメリカンノックを実施。一方で丸太を持ってのスクワットやハンマーを使ってのタイヤ打ちといった、昔ながらの原始的な体幹トレーニングも取り入れる。これらを全員がローテーションで行なうのだ。その大まかなメニューは河室監督が設定し、細かい部分の肉付けをコーチ陣が担当していくのだという。「勘違いしてほしくないのは、本当に昭和の時代にやっていたメニューをやらせているわけじゃないということ。当時のトレーニングメニューの中には、体の故障を招きかねない理不尽なものが多かったのですが、この時代に最優先で考えるべきは怪我の予防です。しかし、こんな世の中でも、科学だけでは身に付けることができないものもあります。辛い練習に全員で取り組み、全員で乗り越えてきたという一体感を生徒に養ってもらいたい。それが『昭和の日』の一番の狙いなんです」その成果が顕著に表れたのが2021年秋。明豊に敗れて県準優勝に終わった大分舞鶴だが、2回までに1-8という大劣勢から最終的には9―10と1点差にまで詰め寄った。また、鹿児島で行なわれた九州大会は、激しい雨の中で9回二死ランナーなしからプロ注目の大野を攻め、土壇場で同点とする粘りを発揮。「昭和の日」で負荷を掛かけた練習を続けたことで、試合中のベンチでは仲間を効果的に鼓舞するような声が以前に増して飛び交うようになり、試合展開を読んでの戦術的な会話も明らかに増えてきたのだという。強豪私学に対峙するために求められるのは、強靭な肉体とチームの一体感。見事に「昭和の日」を結実させた大分舞鶴は、こうして聖地への切符を手にしたのだった。(取材・文:加来慶祐/写真:編集部)*後編に続きます 関連記事 【明豊】変化を続ける「柔軟力」を武器に、川崎絢平監督が目指す夏の頂点 2020.4.2 学校・チーム 【明豊】「全力疾走は『美徳』ではない!」と川崎絢平監督が語る、その真意2020.4.1 学校・チーム 【明豊】川崎絢平監督の試行錯誤と「柔軟力」2020.3.31 学校・チーム 【津久見】練習は打撃が8割!聞こえてきた古豪復活の足音2018.11.19 学校・チーム 【明豊】川崎監督が辿り着いた「全国で戦える打力」を生むティーバッティング(前篇)2017.9.21 学校・チーム 【大分商業】5年間甲子園で勝ててない大分を変えたい2017.4.26 学校・チーム

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