昨年はエース深沢鳳介(現横浜DeNA)を擁して春夏の甲子園に出場した千葉の強豪、専大松戸高校。チームを率いるのは、投手育成に定評がありこれまでに多くの選手をプロに送り出している持丸修一監督。そんな持丸監督の著書『信じる力』(竹書房)の編集・構成を務めた大利実氏に、改めて投手育成論について訊いてもらいました。ピッチャーは育つもの 昨年4月17日、専大松戸高・持丸修一監督は73歳の誕生日を迎えた。この日、偶然にも3人の教え子がプロ野球の舞台で先発することが決まっていた。茨城・藤代高時代に指導したロッテ・美馬学、専大松戸高の卒業生である日本ハム・上沢直之と、ソフトバンク・高橋礼だ。「全員が勝ってくれたらこんなに幸せなことはないな」と思いながら、携帯電話で速報をチェックしていたら、全員が勝利投手になった。試合後、「お誕生日おめでとうございます」とお祝いの電話があり、数日後には、3人の写真とサインが入った記念パネルが届いた。「去年の誕生日は、本当に嬉しかったですね。教え子から、ものすごいプレゼントをもらってね」 巷では、「持丸監督は投手育成に長けている」と評判だ。2019年には横山陸人、2021年には深沢鳳介がドラフト指名を受けた。これまで13人の選手をプロに送り出しているが、そのうち9人がピッチャーである。 そのため、投手育成に関する取材を受けることも多いが、「ピッチャーは育てるものではなく、育つもの。育て方があれば、おれが教えてほしいぐらい」と冷静に答える。「指導者は、あくまでもヒントやアドバイスを送るだけであって、『こうやって投げなさい』と強制するようなことはしません。最終的に何を選ぶかは、選手次第。若い頃は、自分の考えを強制していたときもあるけど、それをやるとある一定のところで成長が止まってしまう。しっかりと話し合って、選手自身に選択させたほうが、言い訳せずに努力をするので伸びていく。そこが年齢を重ねて、一番変わったところかもしれません」真っすぐ伸びるシュート回転「育て方なんてないですよ」と謙遜する持丸監督だが、どういうピッチャーが上の世界で活躍できるかは、何となく見えているという。「肩回りが柔らかくて、腕の振りの強さ以上に、吹き上がるストレートを投げられる子。一番思い浮かぶのが上沢で、入学時は120キロも出ていなかったけど、『プロに行ける素材』と確信したのを覚えています」 取材当日、新1年生が練習に参加し、シートバッティングに登板した。右のオーバースローで、持丸監督が「この子、うまく育ったらプロに行ける素材だと思う」と評価するピッチャーがいた。ストレートはまだ130キロ前後だが、腕の振り以上に球の勢いがある。持丸監督は、「あの子はシュート回転しながらも、真っすぐいくのがいいよね」と呟いた。 どんな意味か……?「体の構造上、シュート回転するのが自然な投げ方です。問題は、そのシュート回転がどの距離で起きるのか。18.44メートルなら真っすぐいくピッチャーも、40メートル離れれば、シュート回転が大きくなり右方向(右投手)に曲がっていくのがわかる。これが、18.44メートルで大きく曲がるようでは、ピッチャーとしては厳しくなります」 ピッチャーとして細心の注意が必要になるのが、対角線に投げるボールだ。右ピッチャーであれば、プレートの三塁側を踏んで、右バッターのアウトローを狙う。リリースだけで調整しようとして、手で引っかくような投げ方になりやすい。「そんなときは、あえてインハイのボール球を投げ込む。インハイに投げれば、シュート回転で吹き上がるボールになりやすい。その体の使い方のまま、アウトローに投げられるようになればいいんですけどね。理想はシュート回転しながらも、右対右のアウトローにまっすぐ投げ込めることです」 今風に表現すれば、「シュート成分が少ないピッチャー」と言える。「ピッチャーはとにかくストレートです。たまに、『ストレートが動いて、クセ球で面白いですね』と言う人がいるけど、高校生のときは伸びるストレートを追い求めなければ、次のステージでは活躍できないと考えています」 小さくまとめずに、土台となるストレートを伸ばしていく。投手指導の大基本は、ここにある。(取材・文:大利実 写真:編集部)後編に続きます。 関連記事 普通の高校生が140km/hを投げるためのポイント!(前編)2022.3.9 トレーニング 「普通の高校生が140km/hを投げるためのポイント」(後編)2022.3.11 トレーニング 彼らが速いボールを投げられる理由(2019夏)|林優樹(近江)2019.9.19 トレーニング 彼らが速いボールを投げられる理由(2019夏)|奥川恭伸(星稜)2019.9.18 トレーニング 彼らが速いボールを投げられる理由(2019夏)|佐々木朗希(大船渡)2019.9.17 トレーニング 【球速アップ講座】彼らが速いボールを投げられる理由|奥川恭伸(星稜)編2019.4.25 トレーニング 【球速アップ講座】彼らが速いボールを投げられる理由|河野佳(広陵)編2019.5.7 トレーニング
元記事リンク:【専大松戸】名伯楽・持丸監督に訊く「投手育成論」