長らく甲子園から遠ざかっていた名門中の名門を、わずか就任2年で20年ぶりの聖地に導いた高松商業・長尾健司監督。今夏の甲子園でも52年ぶりのベスト8への進出を決めた。そんな長尾監督の書籍『導く力 自走する集団作り』(カンゼン)より、今回は第一章『指導者としての原点』の一部を抜粋して紹介します。やらされる3時間より自らやる30分 放課後の練習前には、ホワイトボードにタイムスケジュールを書き出し、メニューの狙いや目的を文字で書き留めるようにした。黒板を使って、野球の授業を進めているようなイメージだ。キャッチボールでもバッティングでも、狙いがぼやけると、効果が薄れてしまう。時間的な量を増やすことには限界があったので、取り組みの質を高めることに力を注いだ。選手たちには、『練習心得』として、次の5つのことを伝えていた。①目的意識の高い練習 常に自分の課題を決定し、目指すべきプレーを明確にして練習すること。②効率の良い練習 時間を守り、各人が役割を分担すること。オープンスペースを活用し、同時進行の練習を行う。③実戦に即した練習 常に実戦を想定し、試合と同じ状況、設定で練習に臨むこと。④集中した練習 心血を注いだ一の練習は、並の十の練習に匹敵する。⑤日誌の活用 日々の練習を反省し、次回の練習がより意識された質の高い練習となるようにする。⑥自主練習の活用 やらされる3時間より、自らやる30分。全体練習での反省点、各個人に課せられた課題を自主練習により克服する。現在も、このベースとなる部分は同じだ。特に大事にしているのが、⑥の自主練習の活用であり、指導者にやらされる3時間よりも、自らが本気になって取り組む30分に意味がある。 価値ある答え=考えた答え 練習試合のときには、「今日は相手のピッチャーから何点取れそう?」「どうやって点を取っていく?」「ノックを見て、相手の弱みがわかった人はいる?」「ピッチャーのクセはどう? どこを見たらスタートを切れる?」と、とにかく問いかけた。授業と同じように、なるべく答えを言わず、選手たちに考えさせるのが狙いだ。たまに、「それは違うだろう」という考えも出てくるが、大事なのは頭ごなしに否定しないこと。否定すると、その選手は考えを述べるのが怖くなってしまう。まずは受け入れたうえで、「こういう考えもあると思うよ」と話を広げていく。このやり方は、高松商でも変わっていない。そもそも、間違った考えや答えなど存在しないと思っている。「価値ある答え」は、「考えた答え」であり、「正しい答え」ではない。これが、私の持論である。大人はすぐに「正しい答え」を求めようとするが、その選択が正しいかどうかは誰にもわからない。正しさを計る尺度は、結果論であることがほとんどだ。人生においてもそうだろう。死ぬときになってみなければ、選んだ答えが本当に正しかったかはわからないものだ。だからこそ、「考えた答え」に価値がある。それが結果に結びつかなかったとしても、考えて、考えて、考え抜いたすえに出てきた答えには重みがある。指導者が、「こうやってやれよ」と一言で指示するよりも、はるかに価値が高い。 目次 第1章 指導者としての原点「失敗」と書いて、「成長」と読む/トップダウンの罰に意味はない/Education=引き出す/プロに進んだ剛腕左腕を攻略 ほか第2章 良き伝統を作り上げる厳しい上下関係を撤廃する/全部員が平等に練習できる環境を作る/多くの選手を試合で起用する/負けたのは選手の責任 ほか第3章 やんちゃ軍団が果たしたセンバツ準優勝明治神宮大会で起きた奇跡/試合の空気を変える男になれ/逆転勝ちの多さこそ主体性の表れ/今も残る決勝戦での後悔 ほか第4章 4元号での甲子園勝利センバツ準優勝後に苦しんだ2年間/夏に勝つための考え方/選手の考えを尊重した継投/最強打者を二番に置く打順 ほか第5章 心技体を磨き上げる考えもしなかったイチローさんからの直接指導/ピッチングの基本は「釣り竿」にあり/「もうダメだ」ではなく「まだダメだ」 ほか終章 私の原点〜学びの大切さひそかな夢は甲子園で早稲田実と戦うこと/『勝利の女神は謙虚と笑いを好む』/「優」しい人間が「勝」つ 書籍情報 「導く力 自走する集団作り」(著・ 長尾健司 高松商業野球部監督)竹書房定価1800円+税 Amazonで見る
元記事リンク:【導く力 自走する集団作り】「指導者としての原点」(高松商業・長尾健司監督)