【東北】「楽しい」と「緩い」は同じではない、大事にしている「道徳の時間」

【東北】「楽しい」と「緩い」は同じではない、大事にしている「道徳の時間」

12年ぶりとなる選抜出場を決定的にした東北高校。昨年8月に佐藤洋監督が就任してからあらゆる点を見直し、選手主体で取り組む方針によってより力を発揮しやすい環境になっていることが至る所から感じられた。後編では選手が試合で見せた変化や、野球以外の部分で佐藤監督が大事にしている点を紹介する。試合も練習も、余計なことは言わない 前編はこちら» 部員達がお金を出し合って買ったスピーカーから流行の音楽が流れているグラウンド。選手たちが自主的に考えたメニューを監督、コーチの顔色を伺うことなく取り組んでいる様子は前編でも紹介したが、選手に考えさせて成長の機会を与えるというのは普段の練習だけではないという。実戦の場でも新たな取り組みを行い、それが想像以上の効果があったと佐藤監督は話した。「弘前学院聖愛さんと仙台一高さんが賛同してくれたので実現したのですが、練習試合の2試合目でお互いの選手をシャッフルしてやるミックスゲームというのをやったんですね。どんなメンバーでどうやってやるか、アナウンスや試合の進行も任せてやりました。色々決めるのに話し合うので時間はかかったんですけど、選手たちが本当に楽しそうで凄くいい雰囲気で試合をしていました。こちらが想像していた以上に盛り上がっていましたね。お互いのチーム、選手の良いところを学べる凄く良い機会だと思います。そういうことをやっていたら、公式戦でも選手はこっちを見て頼るようなこともなくなりました。少しはこっち見ろよと思うくらいです(笑)」高校野球では5回終了時のグラウンド整備の時に、選手全員がベンチ前に集まり、監督が細かく指示を与えている姿がよく見られるが、東北高校はそういったこともしていないという。「選手たちの声を聴いていると、それぞれ結構良いことを言ってるんですよ。それなのにこちらが無理に集めて何かを言う必要はないなと思いました。だから5回の中断の後も、入り方だけしっかりと言っただけで、余計なことを言わないようにしています。そうやってると試合をやるごとに選手が成長していくんですよね」 練習前に「道徳の時間」 選手に任せる、考えさせる取り組みを行っている佐藤監督だが、選手全員の前で監督自身が話す時間も設けているという。しかしそれは野球についてではなく、主に考え方や一般常識などが話題であり、『道徳の時間』と呼んでいるそうだ。「練習前の20分から30分くらい、その日あった出来事とかを話題にして話をしています。それまでは選手たちが書くという習慣もなかったので、メモを取らせながらやるようにしました。例えば東北大会の時にホテルのエレベーターで一緒になったら、誰もボタンを押そうとしないんですよね。だから自分が押したんですけど(笑)。なので、エレベーターに乗る時、タクシーに乗る時のマナーについて話したりもしました。私が就任した時は『野球だけをしていればいい』という空気が少なからずあったので、整理整頓の大事さや、自分たちが野球をできていることのありがたさみたいなことも話したりしています。一度全員で被災地の南三陸に行って、実際に被災された方の話を聞いたりもしました。そういうことをやっていくと、だんだん生活面でも変化が出てきて、他人のことも考えられるようになってきたかなと思います」実際に寮の掃除ができておらず、そのことで選手からの信頼を得られずにスタメンから外された選手もいたという。髪型や服装などは自由にするという一方で、野球以外の生活面の重要性を説くことは疎かにしていないことがよく分かるだろう。また、道徳の時間では東北勢初の甲子園優勝を果たした仙台育英の須江航監督が出演した情熱大陸(TBS系)で取り上げられた東北高校の一コマも題材に上がったという。「最後にうちの選手たちが、須江さんが球場から出てくるのを待っていて挨拶したという形で紹介されていたんですよ。それを見た人から『ひろしさんが行かせたんですか?さすがですね』みたいなことを言われたんですけど、自分は何も言っていません(笑)。選手に聞いてみても、自分たちの取材対応で待っていたら、須江さんが出てきたから挨拶しただけで、わざわざ待っていたわけではないと。でもこれも面白いなと思ったんですよね。今回はマスコミの方が、うちにとって良いように切り取ってくれたけど、逆に悪いように切り取られることだってあると。これから選抜が決まって取材も増えるけど、どこを切り取られても大丈夫なように対応した方がいいよね、そんな話をしました」選手たちの振る舞いや取材対応を見ても良い意味で高校野球らしさはなく、大人ともしっかり会話ができるという印象を受けたが、それもこのような取り組みの成果と言えるのではないだろうか。そして佐藤監督の根底には自分のチームだけではなく、日本の高校野球、野球界に対して何とかしたいという思いがあるという。「大人の都合で野球が嫌になって辞めてしまう、辞めるまではいかなくても嫌いになってしまうことは本当に多いと思うんですよね。だから選手たちには次のステージに行っても、ここと同じようにやるのは難しくても、良い方向に変えられる力は持ってほしいと思っています。それは野球に限らず、将来親になったら、会社で人の上に立つ立場になったらというのも同じで、そういう話はしています」「楽しい」と「緩い」は同じではない佐藤監督の話すように東北高校の練習は最初から最後まで楽しい雰囲気が漂っており、東北大会で実際に試合を見た時にもそれが伝わってきた。しかし楽しいことと緩いことは同義ではなく、逆に厳しい部分もあるという。「本来、好きで始めた野球で、上手になることは楽しいわけですから、楽しく野球をやるのは何もおかしなことではないはずです。でもそれは緩いのとは違います。昔、初めてアメリカの少年野球の指導の現場に行った時に、芝生に寝転んでいる子がいたんですね。でも練習が始まってもコーチは何も言わない。だから『あの子はあのままでいいのか?』と聞いたら、『上手になるのもならないのも彼の自己責任だ』と言うんですね。自分で上手くなりたければ自分から動くのだと。それを聞いて衝撃を受けましたよね。自分たちで考えてやるというのはそういう側面も当然あります。自分で上手くなりたいと思って楽しんでやる方が誰かにやらされてやるよりも効果はあるはずですし、高校野球でもそれは同じだと思っています」東北高校に取材する1週間前、別の取材で仙台育英の須江監督に話を聞く機会があったが、東北高校の印象について聞くと、「夏までよりも選手の能力が引き出されている印象を受けた」と話していたが、まさに佐藤監督の目指す野球が浸透してきている証拠と言えるのではないだろうか。前述の南三陸に行った話しに戻るが、その後に選手達と海水浴に行ったという。「そうしたらみんな本当に楽しそうで、この顔で野球をやったらもっといいのにと思うんですよね。そういうことを言うと高校野球らしくないって言われますけど、そんなことは決してないと思います」東北高校が選抜でも結果を残せば日本の高校野球界が大きく変わるかもしれない。そんな可能性も十分に感じられる東北高校の取り組みだった。(取材・文:西尾典文/写真:編集部) 関連記事 【東北】選手の意思を尊重、成長する機会に蓋をしない〝ひろし”イズム2023.1.10 学校・チーム 名門大から奨学金オファーが殺到!元高校球児に聞くアメリカ野球留学2022.5.19 PR 【東北】準決勝進出!強さを支える投手陣の体幹トレーニング!2017.7.30 トレーニング 【東北】ナツタイを制するのは俺たちだ!121人の力で連覇を狙う!2017.7.28 学校・チーム 【全国スイングスピード選手権】東北高校が挑戦!2017.6.13 企画 【東北高校】球児が自発的にやるケースもある!? 野球部員をひとつにした“五厘会議”2016.6.24 学校・チーム 【東北高校】地区第5代表から東北大会Vへー。王座奪回に燃える東北高の挑戦(後編)2016.6.17 学校・チーム 【東北高校】地区第5代表から東北大会Vへー。王座奪回に燃える東北高の挑戦(前編)2016.6.17 学校・チーム 【東北高校】背番号発表当日。歓喜の様子をレポート2016.6.8 学校・チーム 【東北高校】2ケタ背番号の仕事は重要だ(鈴木コーチ)2016.6.7 学校・チーム

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