【東北】前監督の「楽しむ野球」を結果に繋げた!我妻監督率いる東北高の現在地

【東北】前監督の「楽しむ野球」を結果に繋げた!我妻監督率いる東北高の現在地

今年の秋季東北大会で準決勝進出を果たした東北高校。初戦の日大東北戦は初回の三塁打から始まった「ローアウトからの得点」という戦術が光った。指揮を執るのは、7年ぶり3回目の監督就任となる我妻敏監督。20代、30代、40代の3世代で母校の指揮官を務める異例のキャリアを持つ監督が、大学コーチとして学んだ7年間を経て、甲子園出場を再び目指している。サイレン音の中の、松本の三塁打秋季東北大会2回戦。場所は岩手・花巻球場。宮城2位で出場した東北は、初戦で日大東北(福島2位)と対戦。8-0で勝利し完勝スタートを切った。この試合は主将の松本叶大(2年)がジャンケンに負けて先攻となったことが幸いした。1回表。東北は、その1番松本が初球を迷いなくスイング。場内にサイレン音がまだ響く中、打球はセンターに伸びるライナー性の当たりに。松本は快足を飛ばし三塁打とした。続く2番梅田昊青(2年)が四球を選び、さらに二盗。無死二、三塁の場面。ここで次打者が暴投をもらい、松本が生還。素晴らしいスタートを切っていた二走梅田も返り、労せず2点を先取した。まさに電光石火の攻撃。我妻敏監督が「あの初球だった。キャプテン松本の1本でチームに勢いがついた」と振り返った瞬間だった。松本は「調子が悪くて本当に打てる感じじゃなかったんですが、我妻先生に指導いただいて、急に打てるようになった。直前の練習で感覚をつかんだあとの三塁打だったので、先生にはホントに感謝してます」と喜びを顔いっぱいににじませた。試合は11安打で8得点を挙げる効率的な攻撃だった。 日大東北戦の1回表、三塁打で出塁した松本が鮮やかに先制ホームを踏む 東北大会の勝利は「ローアウトからの得点」が結実 チームは準決勝に進出。優勝候補の花巻東(岩手1位)との一戦は、4失点されたあとの4回裏の攻撃が光った。3番進藤翔愛(2年)の三塁打で1死三塁とし、内野ゴロで1点をもぎ取った。ここでも「ローアウトからの得点」が成功した。松本主将は「新チームから監督、コーチに言われて三塁走者を返す練習を繰り返し練習してきました。打てなくても誰かが返してくれると思っていました」。いわば、弱者の戦法。能力の差を感じた花巻東に1-4と食い下がれたのは、この走塁を生かした戦術にあった。「あの1点がなければコールド負けの恐れもあった」と我妻監督が振り返る貴重な得点。持ち味を生かし、難局打開でつかんだ東北大会はみごと3位。センバツ出場枠「3」を視野にいれ、冬の練習に打ち込んでいる。 「選手たちは浸透力が早く、学ぶ意欲が高い」と我妻敏監督。表情にも現れている 7年ぶり3度目の母校監督就任  2025年秋の宮城大会からコンビを組む鈴木雄太部長(写真左)と我妻敏監督 我妻監督は今年の8月、7年ぶりに母校の監督に復帰した。「7年ぶり3回目の監督就任」となる。選手時代は投手で2年春にセンバツ大会出場、3年時は投手兼主将を務めた。その後、東北福祉大に進み、副主将として4年時に全日本大学選手権優勝。一度一般企業に就職し、2005年に母校の社会科教員として赴任。27歳の時に監督として2009年夏に甲子園出場。部長を経て2013年に再び監督に就任し34歳の16年夏に甲子園出場。一度退任し、2019年から東北と「高・大包括連結協定」を結ぶ東北福祉大に勤務。大学ではコーチとして野球部をサポートし、今年2025年に全日本大学選手権で7年ぶり4度目の優勝を果たした。現在43歳。20代、30代、40代の3世代で母校監督を務める異例の高校野球指導者だ。「大学日本一になったあと、五十嵐征彦校長から監督として母校に戻ってこないかと話がありました。高校野球から離れた7年間の期間は、指導者としての視野を広げる時間となりましたね。目の前の大学生だけでなく、練習試合で社会人野球の方と接したりと指導の視野が広がりました。私生活では、息子のチームで少年野球の審判をしたりと、学童野球の世界も見ることができた。勉強になった7年間でしたね」と振り返る。 校長に直訴した「たったひとつの条件」 7年の間、野球部を取り巻く環境は、いろいろなことがあった。コロナ禍があり、2022年に仙台育英が東北初の全国制覇があった。2023年春には佐藤洋監督のもとでセンバツ出場を果たし「楽しむ野球」を存分に発揮。その佐藤前監督が今年7月に任期満了で退任したあと、11月27日に急性大動脈解離のため急逝するという悲しい出来事があった。享年63歳。東北高校野球部の歴史に大きな足跡を残した指導者を失った悲しみは深い。五十嵐校長は語る。「わが校のさまざまな運動部の生徒が全国で活躍している中、野球部が夏の甲子園出場に行けていないことは、やっぱり寂しく思っていました。満を持して我妻監督に戻ってきてもらい、佐藤前監督からいいバトンを受け継いで強いチームを作ってほしいと願っています」。夏ごろ、校長から急なオファーを受けた我妻監督からの条件はただ一つだった。「コーチに鈴木雄太をおいてほしい」。2009年の甲子園出場時の教え子で、2016年のコーチを務めた“右腕”。離職していた鈴木を説得し教員として採用。コーチ兼副部長として野球部に呼び戻すところから再建は始まった。9月。秋の県大会に向けた練習場に足を踏み入れると、選手たちが真剣な中にもいい笑顔で筋力トレーニングに打ち込んでいた。埼玉の中学校から佐藤前監督を慕って越境入学した西田勝喜マネージャーは「洋さんは、野球の本当の楽しさを教えてくれました。自分たちで考えて、行動し、練習する力がついたと思います」と目を輝かせていた。監督が代わり、新チームが始まっても、選手たちは自主的に動き、取材に対しても明るくポジティブ。言語化する能力が根付いていた。ではどのようにして前監督の「楽しむ野球」を結果につなげたのか。後編では、我妻監督の指導論に迫る。(続く)(文・写真/樫本ゆき) 関連記事 【東北】「楽しい」と「緩い」は同じではない、大事にしている「道徳の時間」2023.1.19 学校・チーム 【東北】選手の意思を尊重、成長する機会に蓋をしない〝ひろし”イズム2023.1.10 学校・チーム 名門大から奨学金オファーが殺到!元高校球児・西田陸浮さんに聞くアメリカ野球留学2022.5.19 PR 【東北】準決勝進出!強さを支える投手陣の体幹トレーニング!2017.7.30 トレーニング 【東北】ナツタイを制するのは俺たちだ!121人の力で連覇を狙う!2017.7.28 学校・チーム 【全国スイングスピード選手権】東北高校が挑戦!2017.6.13 企画 【東北高校】球児が自発的にやるケースもある!? 野球部員をひとつにした“五厘会議”2016.6.24 学校・チーム 【東北高校】地区第5代表から東北大会Vへー。王座奪回に燃える東北高の挑戦(後編)2016.6.17 学校・チーム 【東北高校】地区第5代表から東北大会Vへー。王座奪回に燃える東北高の挑戦(前編)2016.6.17 学校・チーム 【東北高校】背番号発表当日。歓喜の様子をレポート2016.6.8 学校・チーム 【東北高校】2ケタ背番号の仕事は重要だ(鈴木コーチ)2016.6.7 学校・チーム 【東北高校】•我妻監督流「背番号獲得の3条件」(後編)2016.6.6 学校・チーム 【東北高校】我妻監督流 「背番号獲得の3条件」(前編)2016.6.6 学校・チーム

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