今年の高校生投手は選抜でも大活躍を見せた今朝丸裕喜(報徳学園)が目玉と言われている。しかし甲子園出場やU18侍ジャパン候補への選出はないものの、にわかに注目を集めている投手がいる。それが知徳(静岡)の小船翼だ。198cm、110kgという日本人離れした体格で150キロを超えるスピードを誇り、日に日にスカウト陣の評価も高まっている。そんな小船投手を指導する初鹿文彦監督にこれまでの成長の経緯などを聞いた。アウトが取れず初回大量失点のデビュー戦小船は神奈川県海老名市の出身。中学時代は海老名シニアでプレーしていたが、当時は4番手投手で目立った実績もなかったという。そんな小船はどんな経緯で知徳に進学することになったのだろうか。「小船の兄もうちでプレーしていたのがきっかけですね。お兄ちゃんはキャッチャーとして入ってきたのですが、肩が良かったので投手に転向して、最終的には140キロ以上投げるまでになりました。翼もご両親と一緒にグラウンドに来たことがあったんですね。6歳差で当時はまだ小学校5年生だったのですが、既に170cm以上あって驚きました。『将来絶対うちに来いよ』と話したのを覚えています。中学の時は怪我もあったみたいですけど、チームの監督さんが無理をさせない方針だったということも聞きました」(初鹿監督)。 高校に入学した時には既に190cmを超えていたとのことで、実績こそなかったものの、知徳に超大型投手が入学したという情報は早くから県内の関係者の間では話題となっていた。しかし当時のスピードは今と比べればまだまだだったという。「たしか入ってきた時は192cmで体重も95kgくらいあったと思います。ただ、まだ体つきはタプタプしていて、無駄な肉が多かったですね。中学時代は130キロちょっとは出ていたみたいですけど、またそこから身長が伸びてバランスを崩したそうで、最終的には120キロ台に落ちていたみたいです。当時のチームの3年生にあまりピッチャーがいなかったので、入ってしばらくしたゴールデンウィークの駿河総合さんとの練習試合に投げさせたんですけど、初回になかなかアウトがとれなくていきなり7点くらいとられました。相手の望月監督も『大きいけど技術はまだまだだね』っておっしゃっていましたね。夏もベンチには入れたんですけど、初戦で三島南さんに負けてしまって出番はありませんでした。同じ学年でも左の原田(勇磨)の方がデビューは早かったです」1年の秋、「何かつかめたかもしれません」期待の大きさとは裏腹に最初の夏はほろ苦いスタートとなった小船だが、その後は驚きの成長を見せることとなる。きっかけとなったのは1年の秋季大会前の練習試合だった。「新チームになって何とかモノになってくれればと思って練習試合でもよく投げさせて、完投した試合もあったんですけど、なかなか結果が出ませんでした。でも8月の終わりに加藤学園さんとの練習試合で最後の1イニングを投げさせたら三人で簡単に抑えたんですね。そうしたら本人が『何かつかめたかもしれません』って言うんですね。じゃあ2試合目の試合も投げるかと聞いたら『投げたいです』というので3イニングだけ投げたらまた簡単に抑えた。そんなことを言ってきたのも初めてでしたし、実際に結果も出たので県大会も先発させてみたら、川根高校さんに無四球で完封しました。この頃から一気に良くなりましたね。まだスピードは135くらいだったと思いますけど、春には140を出しますと言っていたら飛龍高校戦で142が出ました。その後2年の夏は146、秋には150。もちろんスピードばかりが全てではありませんけど、こちらの想像をはるかに超えるスピードで成長してくれています」 恵まれた体格や投手としての才能があったのはもちろんだが、期待通りに成長することができない選手も多い。そんな中で小船がここまで成長した理由を初鹿監督はどのように考えているのだろうか。「フォームのことなどはこちらから何か言ったことは全くありません。原(史彦)コーチもそんなに細かいことは言ってないと思います。持っているものは間違いなく良いですから、外部のトレーナーの方にも色々指導を仰いで、トレーニングやコンディショニングはしっかりやろうということでやっています。見ていると、本人の中で上手く取捨選択することができていると思いますね。周りの人に色々言われても、頑なに否定するわけではなく、しっかり話を聞いて試したりして、それで合うものを取り入れていっているように見えます」 このように話す初鹿監督だが、練習の様子を見ていても何かを押し付けるような指導は全く見られず、選手たちとの会話も実にフランクなものだった。取材当日も選手たちが前向きに野球に取り組んでいることがよく分かり、そういう雰囲気のチームだったことも小船の成長を後押しした部分もあったのではないだろうか。良い経験になった大阪桐蔭との練習試合知徳は度々県内では上位に進出しているものの、これまでに甲子園出場はなく、高校から直接ドラフト指名を受けたプロ野球選手もいない。そんなチームで小船のような存在がいれば浮いてしまうこともありそうなものだが、そんなことは全くないと初鹿監督は話す。「誰も小船のことを特別扱いもしていませんし、仲良くやっていると思います。うちは小船以外もたまたま190cm近い大きな選手もいますし、逆に160cmもない小さい選手もいるんですが、小さい選手からも『しっかりやれよ』とか言われていますからね」逆に小船の存在がチームにとって大きなプラスとなる出来事もあったそうだ。「前にたまたま試合の帰りで高速道路のサービスエリアで休憩していたら、大阪桐蔭さんが関東遠征の帰りでいらっしゃったんですね。うちの原コーチと大阪桐蔭の橋本(翔太郎)コーチが年齢が同じで、面識があったのでその時に西谷(浩一)監督を消化してもらいました。そんなことが前にあったので、この春の関西遠征の時に、思い切って練習試合をお願いしたら予定を変更して受けてくださいました。小船は立ち上がりにラマルくんに死球を当ててしまって、選抜も控えているのでちょっとその後は思い切った投球ができなかったのですが、それでも良い経験ができました。他の選手も大阪桐蔭さんと試合ができたことで意識も変わったと思います。そんな経験ができたのも小船がいたおかげですからね。本当にありがたいことです」 終始嬉しそうに小船について話す初鹿監督の様子が印象的だったが、それだけの期待以上の成長を見せてくれたということは間違いないだろう。後編では小船本人のインタビューを紹介する。 (取材:西尾典文/写真:編集部) 関連記事 【WHO'S NEXT】勝又 湧斗(静岡)「鋭いスイングが自慢の駿河のバット職人」2021.7.21 選手 【2020高校生ドラフト候補紹介】#12 相羽寛太(静岡)2020.1.31 選手 【静岡】基本は健康な身体づくり!寮生も自宅生も同じ意識で2019.12.23 カラダづくり 【2019高校生ドラフト候補紹介】#20 紅林弘太郎(駿河総合)2019.5.10 選手 【掛川西】「全員本気・全員野球」勇気を持って戦う姿勢が大切 2018.9.10 学校・チーム 【静岡高校】食トレがキーになる公立強豪校のチームづくり2018.4.3 カラダづくり 【注目選手2018春】名門校の牛若丸|村松開人(静岡)2018.2.16 選手 【静岡】池谷蒼大と森 康太朗、相思相愛バッテリーのルーティン2017.6.8 選手 【静岡高校】4つのゲージで実践を想定した打撃練習2017.5.26 学校・チーム 【静岡高校】練習もトレーニングも正しい方法でやり続ける2017.5.25 学校・チーム
元記事リンク:【知徳】中学時代は4番手、小船翼がドラフト候補に成長するまで