【都立新宿】野球部伝統の「新宿三全」、全員野球・全力野球・全国野球

【都立新宿】野球部伝統の「新宿三全」、全員野球・全力野球・全国野球

大都会新宿のド真ん中にある文武両道校、都立新宿高校。そんな高校の硬式野球部がこの春の東京大会で旋風を巻き起こしました。躍進の陰には母校の伝統を大事にする、OB監督の姿がありました。都立新宿高校取材の後編です。取材前編はこちら→ 部室に『日本学生野球憲章前文』を掲げる 野球部の部室の入り口には、3年前に卒業した女子マネージャー・池鍋萌香さんが美しい文字で模写した『日本学生野球憲章前文』が掲げられている。制定は1950年。2018年夏に明大球場で試合をした際に、田久保監督が控室で見つけたという。「『日本学生野球憲章前文』が貼られているのを見ました。改めて読んでみると、“何のために”学生野球をやるのかがよく書いてあります。特に、今の高校生はコロナ禍のど真ん中。いろいろな制限の中でなぜ野球をやるのかを、私自身も考えるようになりました」一部を抜粋すると、このような文がある。『勤勉と規律とはつねにわれらと共にあり、怠惰と放縦とに対しては不断に警戒されなければならない』『元来野球はスポーツとしてそれ自身意味と価値とを持つであろう。しかし、学生野球としてはそれに止まらず、試合を通じてフェアの精神を体得する事、幸運にも驕らず非運にも屈せぬ明朗強靭な情意を涵養する事、いかなる艱難をも凌ぎうる強健な身体を鍛錬する事、これこそ実にわれらの野球を導く理念でなければならない』(原文ママ)「私の解釈としては、勉強することもルールを守ることも当たり前で、野球だけやっていてはいけない。そのうえで勝利を目指すことに価値があるが、学生野球である以上はフェアプレーで戦い、悲運があったとしても、屈せずに戦い抜く。この理念のおかげで、コロナ禍でも道を見失わずにいられました。新宿の部員にも、こうした話をするようにしています」目指すは「日本一の文武同道」田久保監督が赴任してから大切にしているのが、『日本一の文武同道』という考えだ。学校では『文武両道』を掲げているが、新宿愛に溢れた指揮官が提唱するのは「同じ道」。これに関しては、キャプテンの一村幸が想いを語ってくれた。「文も武も同じ道。勉強も野球も、ひとつの同じ道の上にある。両方を成し遂げようとすることで、人として成長できると思っています」進学校ということもあり、完全下校は17時。放課後の練習は2時間弱だ。難関国立大学を第一志望に見据える一村は、1時間かけて自宅がある小平に帰り、1時間ほど素振りやトレーニングをしたあと、夕飯を食べて、風呂に入り、21時半に就寝。朝3時半に起きて2時間勉強をしてから、学校に行くルーティンを続けているという。「練習をもう少しやりたい気持ちもありますけど、その分は自主練習でカバーしています。勉強のことも考えると17時に下校できるのが、ちょうどいいです」田久保監督が赴任した当初は、16時20分に練習が終わり、ゆっくりと片づけをしていたという。部室までも歩いて戻っていた。そこから徐々に終了時間を延ばして、今は16時40分まで。グラウンド整備をして、「うちの着替えは日本一早いですよ!」と指揮官が誇るスピード技で、すぐに制服(学校は私服登校OKだが、野球部は「原則として標準服」の校則を厳守)に着替えて、16時55分に集合。3~4分ほどミーティングをして、16時59分に校門を出る。「17時まででも十分にやりたい練習はできます。いかに準備と行動を早くするか。一番大事なことは、『練習時間が短い』と思わないことです。他校と相対的に比較するのではなく、新宿高校の中でできることを突き詰めていく。赴任したときには、『練習時間が短い、グラウンドが狭い、練習試合が少ない』という選手の声もあったのですが、それをひとつずつ潰していきました」グラウンドは三角形の変則型(両翼90メートル、中堅65メートル)で、練習試合はできない。放課後は、外野にサッカー部がいるためフリーバッティングやノックも難しい。それを補うために、バッテリー間を縮めた距離で、バックネットに向かって打つバッティング練習でスイング量を確保している。野球部伝統の『新宿三全』「全員野球」「全力野球」「全国野球」。シンプルな言葉から成る。3つ目の「全国野球」は、「常に甲子園を目指す」という意味が込められているそうだ。野球部の目的は、「人間・人格の発展」。そして目標は三段階に分けて、「大目標=日本一の文武同道の達成」「中目標=甲子園での勝利」「小目標=甲子園出場」と続く。現状の立ち位置を考えると、甲子園は遠い目標に思えるが、「勉強と野球に100パーセントの力を注ぐのが『文武同道』の大前提と考えたとき、高い目標を目指していくことが、『人間・人格の発展』にもつながっていくと考えています」と語る。目的、目標に加えて、その代ごとのスローガンがあり、今年掲げるのは『継勝』だ。昨夏7年ぶりに都大会で勝利するなど、野球部は着実に変わってきている。未就学児や小学生への野球振興にも積極的に取り組み、野球の面白さや魅力を次世代に伝えている。コロナ禍以前には、『ウェルカム新宿作戦』と題して、新宿の街で外国人観光客への道案内を行った。8か国語のあいさつを事前に練習していくなど、“おもてなし”の心を養った。利他の精神やコミュニケーション力を磨くことも「文武同道」に通じる道だ。「OBのひとりとして、私は10年かけて、本気で甲子園、本気で難関校を狙う文化を作っていきたい」(田久保監督)偉大な先人たちの想いをつなぎ、それを後輩に伝えていく。『大家族主義』の理念を胸に、チーム新宿で目標に突き進む。(取材・文:大利実/写真・編集部) 関連記事 【都立新宿】春に旋風起こした「文武両道」の伝統校2022.5.25 学校・チーム 【専大松戸】名伯楽・持丸監督に訊く「投手育成論」(後編)2022.4.11 学校・チーム 【専大松戸】名伯楽・持丸監督に訊く「投手育成論」(前編)2022.4.8 学校・チーム 【大府】学校を挙げての体育指導強化と「検定型授業」(後編)2022.3.31 学校・チーム 【大府】野球部強化にも繋がる、学校を挙げての体育指導強化(前編)2022.3.29 学校・チーム

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