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甲子園出場こそないものの、かつては県内でも上位進出の常連であり多くのプロ野球選手も輩出していた愛知県豊田市にある杜若高校。だが近年は目立った成績を残すことができていない。そんなチームの再建を託され、昨年4月に監督に就任したのが同校OBの田中祐貴氏だ。『ユウキ』の登録名でプロ野球でも活躍し、引退後は育成年代の指導も経験している。そんな田中監督に目指す野球、チームの方針などについて聞いた。6人のプロを輩出も、部員減で廃部危機 杜若高校の野球部は学校創立と同時の1976年。1980年代後半から徐々に力をつけ始め、1996年夏には愛知大会で準決勝に進出している。そして当時のチームで2年生ながらエースを務めていたのが田中祐貴監督だった。翌年夏は準々決勝で敗れたものの、その年のドラフトでは近鉄から5位指名を受けてプロ入り。その後オリックス、ヤクルトと渡り歩き、一軍通算28勝をマークしている。引退後は地元の愛知に戻り野球塾やトレーニングジムで指導。2017年からは帝京大可児(岐阜)でもコーチを務め、2020年にプロ入りした加藤翼(中日)の成長も後押ししている。そして一昨年の秋から母校である杜若でもコーチを務め、昨年4月に監督就任。しかし田中監督の現役時代とは全く違うチームになっていたという。「帝京大可児でも貴重な経験をさせてもらいましたし、そちらを離れるということで迷いはありましたが、最終的には母校を指導したいという気持ちもあって、監督を引き受けることにしました。OBとしてはやはり母校が気になっていましたし、ここ数年は本当に部員も少なくなっていたので、それを何とかしたいというのが一番ですね。今の選手たちは杜若が県で上位に勝ち進んでいたこともよく知らないと思いますし、そういうチームだと思っては入ってきていません。だから目標のために苦しいことをするという発想がそもそもなかったですね。本当に同好会みたいな感じですね。だから監督になって最初に勝つためには厳しさや規律は必要だということは話しました」田中監督が就任した当時の3年生は8人、2年生は4人で、もし監督を引き受けていなかったら部員不足で休部、廃部の可能性もあったという。近年、部員不足に悩んでいる野球部は多いが、過去に6人ものプロ野球選手を輩出しているチームとは思えない状況である。田中監督が就任したことで昨年の新入部員は14人、今年4月には30人もの1年生が加わることになり、やはりその期待の大きさがうかがえる。しかし選手に対して求めるものは厳しさや規律だけではないと話す。「厳しさが必要だということは話しましたが、どこよりも練習量を多くこなして、泥臭くやれば良いとも思っていません。特に気を付けているのが怪我ですね。自分ももちろん選手におかしな様子がないかはしっかり見るようにするし、逆に選手たちからも異常があればすぐに言いに来るようにということは伝えました。あとは日々の練習の中で選手に対して変化を求めるような声はよくかけています。最初に感じたのは、僕から見ると無駄が多いということですね。練習前のウォーミングアップを見ても、何のためのやっているのか分からない。選手に聞いても答えられなくて、ただ決められたことをこなしているだけなんですね。どこが張っているとか、足りないところとかは選手によって違うわけで、それなのに全員が同じことをやっていても意味がないですよね。だから何が必要かを自分で考えて個人アップにするようにしました。ただ最初はそうしようと言っても何もできない。だから一種目ずつこちらから例を教えるところから始めました。まだまだですけど、ようやく1年経って各自が自信を持ってやれるようにはなってきましたね」我慢と試行錯誤の繰り返し選手が自主性、主体性を持って取り組む。最近の高校野球ではよく聞くキーワードであり、田中監督の目指す方向性もそう見える。しかし何もない状態でそれを求めるのは違うのではないかと田中監督が話す。「最終的には『選手が主体性を持って取り組むんだよ』という話もしますが、それを求めるだけではなかなか上手くはいきません。与えられたレールの上だけでやっていたので、そもそも自分で何かを調べたりという発想もないし、僕に聞きにくることも最初はできませんでした。こちらも雰囲気で分かるので『あ、困っていて何か聞こうとしてるな。でも先のことを考えるとこちらから声をかけずに我慢した方がいいのかな』という試行錯誤の繰り返しです。1から10まで全てをこちらから伝えてもダメですし、何も伝えないのも当然ダメです。どのタイミングでどの程度何を伝えるか。そんなことを常に考えながらやっているという感じですね」 この日の練習でも選手に任せている時間も長かったが、場面によっては個別に話をしているケースも見られた。ただ選手からは指示を待っているだけという様子は感じられず、まだ監督就任から1年でも徐々にチームが変わっていることは間違いないだろう。次回は田中監督自身の経験から指導に生かしていることなどを紹介する。(取材・文・写真:西尾典文) 関連記事 大敗の春からの巻き返し、「一体感を持ってチームで戦う」|中京大中京・高橋源一郎監督2023.5.5 学校・チーム 甲子園での継投、広陵・中井監督の笑顔|中京大中京・高橋源一郎監督2023.4.28 学校・チーム 【誉】2年で「四強」のフィジカルを超えて、大阪桐蔭に追いつこう!2022.7.9 学校・チーム 【大府】学校を挙げての体育指導強化と「検定型授業」(後編)2022.3.31 学校・チーム 【大府】野球部強化にも繋がる、学校を挙げての体育指導強化(前編)2022.3.29 学校・チーム 【西尾東】一人も辞めなかった3年生、最後の大会も全員で!2020.6.30 学校・チーム 【享栄】全国制覇監督が現場を離れて学んだこと、気づいたこと(後編)2019.10.29 学校・チーム 【享栄】全国制覇監督が現場を離れて学んだこと、気づいたこと(前編)2019.10.28 学校・チーム 【東邦】AI搭載マシンを使用したバッティング練習2018.12.13 学校・チーム 【東邦】東海王者の練習は基本重視の「東邦スタイル」2018.12.12 学校・チーム 【愛工大名電】「強打」へ舵を切ったチームの地下足袋とトスバッティング2018.7.9 学校・チーム 【愛工大名電】強打も武器にした紫軍団、「バント練習はしていない」2018.7.6 学校・チーム 【愛知】フィジカルの重要性を食トレで改めて実感2018.4.17 カラダづくり 【至学館】グラウンドを持たない「東海王者」の練習内容と取り組み2017.7.3 学校・チーム 【至学館】恵まれない練習環境で躍進を続ける東海王者2017.6.30 学校・チーム
元記事リンク:かつての強豪校が廃部危機、再建託された元プロ監督|杜若・田中祐貴監督
