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失敗を経て頂点に辿り着いた名将たちにも、失敗や後悔、苦い敗戦があった——。昨年発売された『甲子園優勝監督の失敗学』(KADOKAWA)の中から、高校野球指導者の方に参考となる部分を抜粋して紹介します。今回はU-18野球日本代表・小倉全由監督(前日大三監督)の章の一部を紹介します。歌舞伎町のボーイから教わった胸に刺さるキラーフレーズ 小倉監督を取材していると、「それ面白いですね!」というエピソードをいくつも聞くことができる。日々のさまざまな経験を、野球の指導に生かしていることがよくわかる。「こういう話をすると、『いいアンテナ持っていますね!』と言われるんだけど、自分ではわからないんですよね。おれにとっては、自然なことというか」日本一を果たした2001年夏には、こんなこともあった。西東京大会開幕後、監督のお兄さんが「この夏も頑張れよ!」と、小倉監督と三木先生を連れて、歌舞伎町でステーキをごちそうしてくれた。食べ終わったあと、「せっかく歌舞伎町に来たんだから」と小倉監督と三木先生でぶらぶらと歩いていたら、呼び込みのボーイに声をかけられた。「社長! 人生80年、1時間、私にかけてください!」その言葉がビビッと胸に刺さった2人は、「お兄ちゃん、今の言葉最高。いいね。行くよ、その店!」と、誘われるがままに店に向かった。「大した店でもなかったんだけど(笑)、その言葉が本当に良くて。翌日、早速、選手に伝えました。『お前ら、人生80年。野球なんて2時間集中すりゃいいんだよ。簡単なことだろう!』。そうしたら、選手もみんな頷うなずいてくれてね。何年か経ったあと、近藤(一樹)が遊びに来たときに、『あれな、歌舞伎町のボーイの言葉なんだよ』と言ったら、『えー!』と驚いていました(笑)」また、家族のふとした一言から、学ぶこともあった。小倉監督は1〜2週間に1回の頻度で、千葉の実家に帰る。10年ほど前、野球を始めたばかりの小学生の孫が、〝じぃじ〞の帰りを心待ちにしていた。「庭でキャッチボールをしていたら、強い雨が降ってきて、そうしたら孫が雨に向かって、『おれには時間がないんだよ!』と叫んでいて。じぃじと野球をやりたいけど、毎日いるわけじゃないから、なかなかできない。それを聞いた女房が、『いいよ、お風呂を沸かしておくから、じぃじと好きなだけ、泥んこになっていいから遊んできな』って」小さな子どもが、雨に向かって叫ぶ。まるで、ドラマのような光景だ。「そのあと、女房とこんな話をしました。『選手がグラウンドに毎日来てくれるっていうのは、当たり前のことではないよな。おれに怒られても、𠮟られても、次の日にはグラウンドに来てくれる。今日もよく来てくれたなって感謝の気持ちを忘れないようにしないといけないな。それがあれば、バカヤロウ!と𠮟っても、突き刺すような言葉にはならないんじゃないかな』。孫はもう高校生になったけど、いろいろなことを教わりましたね」取材をしていて感じたが、小倉監督の中には〝失敗〞という概念がないのかもしれない。そのときに「まずいことをしたな」と思っても、自らの行動で上書きしていき、プラスに変えている。 取材が終わりに差しかかった頃、これからの人生について聞いてみた。それこそ、「人生80年」の世界だ。——これからの夢はありますか?「夢らしい夢もなくて、家でボーッとのんびり暮らせればいいなとも思っていたんですけど、こうした取材も含めて、いろんな方から声をかけていただいて、それが一番嬉しいし、ありがたいですね。頼ってもらえるというか、必要とされることが、もう本当にありがたいです。自分はとにかく寂しがり屋なので(笑)」2023年12月には、U-18日本代表の監督になることが発表された。小倉監督の指導を求めている人が、まだまだたくさんいる。これからも選手とともに笑って、泣いて、勝利に向かって戦い続けていく。(続きは書籍でお楽しみください) Amazonはこちら 「甲子園優勝監督の失敗学」大利実KADOKAWA2024/7/31発売
元記事リンク:甲子園優勝監督の失敗学|日大三前監督・小倉全由