【仙台育英】名将によるバッティング上達メソッド!(須江航 監督)

【仙台育英】名将によるバッティング上達メソッド!(須江航 監督)

打撃指導に定評のある6人の名将が技術論を中心とした打撃論を存分に語っている『高校野球監督がここまで明かす!打撃技術の極意』(大利実/カンゼン)。その著書の中から今回は、仙台育英・須江航監督の章の一部分を紹介します。須江航の「打撃メソッド」とは? 1.年間計画で取り組みを明確に 1カ月ごとに3つのテーマを掲げ、毎月「やるべきこと」を明確にする。いつ、何をやるかを事前に計画しておくことで、その後の結果を論理的に振り返ることができる。結果が出たときに、その理由とプロセスまでわかるようにしておくことが理想。 2.冬はスケールアップの時期 試合のない冬は細かな技術指導などは行わず、打球角度、打球速度を上げて飛距離を伸ばすことを最重要視する。食事とウエイトトレーニングで、体重&筋力をアップさせ、スイングスピード140キロ以上、打球速度145キロ以上(ティーバッティング)を目標値に設定。タイプを問わず、全選手が〝スケールアップ"に挑戦する。 3.好投手と対戦する機会を作る 公式戦前には、練習試合で全国トップレベルのピッチャーとの対戦機会を作る。150キロ近いボールを投げる速球派と対戦することで、早い段階からトップの位置で待つ重要性やタイミングの取り方など、自らの課題を改めて洗い出す。言葉だけでなく、選手に「体感」させることで、選手に気づきを与える。 4.大きな関節を意識する トップへ持っていく動きやスイング動作などは、どうしても手首など器用に操作できる末端に近い関節を意識してしまいがち。その分、ブレが生まれやすいため、なるべく肩甲骨や股関節などの「大きな」関節を意識させる。そのほうがブレは少なく、動きを再現しやすくなる 5.スタンドティーで「当て感」を磨く バットの芯でとらえる「当て感は」は、バッターにとってもっとも大事な部分。当て感を磨くために、スタンドティーから7メートル先のネットの中に打ち込む練習を繰り返し行う。スイングスピードをなるべく落とさず、狙ったところに打ち込むことがポイント。スケールアップを目指す冬打球飛距離・打球角度を追求する グラウンドを訪れたのは、2020年1月。底冷えする寒さに思わず体が震えたが、選手たちはグラウンドでフリーバッティングとロングティーに取り組んでいた。どの選手も、全身を目一杯使ったフルスイングで、遠くに飛ばそうとする意志が伝わってきた。「あれでいいんです。今はそういう時期なので」と、監督室から静かに見守りながら、言葉を続けた。「秋の東北大会が終わってからは、バッティングの底上げに取り組んでいます。具体的に言えば、角度を上げて飛距離を出す、打球速度を上げる。つまりは、出力を上げていく。この時期にスケールアップに時間をかけておかなければ、出力が上がらないまま、シーズンを迎えることになってしまう。体の小さい選手や、足が武器の選手であっても、飛距離と打球速にこだわっています」この練習においては、細かい技術はほとんど触れない。一本足で打とうが、後ろ肩が下がろうが、アッパースイングになろうが、問題にはしていない。大会期間中はどうしても目の前の数字(結果)が気になり、バッティングが小さくなりがちだ。それを一度ぶち壊し、スケールアップに挑戦する。「バッターのタイプや可能性を見極めるうえでも、一度は通る道だと思いますし、通らなければいけない道だと思っています。昨年も同じ取り組みをして、そこで小濃(塁/日大)や大栄(陽斗/中央大)のバッティングに力強さが加わるようになりました」目指すべき数字も明確にして、3年夏時点でスイングスピードは140キロ以上、打球速度145キロ以上(ティーバッティング)が目標値となる。例年、レギュラー陣はこれに近い数字を持つ。同時に、食事とウエイトトレーニングによる体重アップ、筋力アップにも力を注ぐ。年間計画表にある、「大きさ〉速さ」に当たるところだ。速さを求めるのはシーズンに入ってからでいいので、冬の時期は大きさを求めていく。140キロ台後半のストレートが武器で、打では長打力が魅力の笹倉世凪は、冬だけで8キロ近い体重アップに成功した。「冬は大きさが再優先。2月に入ってからは、シーズンが近くなるので、速さが優先になります。一塁駆け抜けのタイムが落ちるなど、何か弊害が見られるようであれば、体重を落としていきます」秀光中時代から実践しているが、須江監督はさまざまな数字を取り、記録する。ピッチャーであれば、ストライク率や奪空振り率、走者一塁からの被進塁率など、多岐に及ぶ。「選手を客観的に評価するには、数字は欠かせません。メンバーを決めるときに、周りが納得する判断材料にもなります」「チャンスに強いだろう」「抑えてくれるだろう」といった主観を排除し、選手を評価している。ミートポイントの確認振り出す準備を早く作る  飛距離と打球速度の獲得を目指す冬。細かなフォームは気にせず、フルスイングしていいのだが、その中でも注意点が2つある。ひとつは、ボールをとらえるミートポイントだ。「遠くに飛ばそうと思えば、必ずポイントが前になっていきます。腕が伸びたところでとらえたほうが、引っ張った打球は飛んでいきますから。それはそれでいいとして、彼らには『ポイントが前になることだけは、理解しておくように。実戦で打とうと思ったら、今と同じポイントで打率を残すのは難しい。スタンドティーや横からのティーなどで、実戦に近いポイントで打つことも、自主練習の中で補っておくように』と言っています」ただし、あくまでも、メインテーマは出力アップ。ミートポイントのことをあまり言いすぎると、本末転倒になるので、あくまでも全体練習の中では飛距離と打球速アップに取り組む。もうひとつは、ピッチャーとのタイミングの問題だ。冬場はスローボールを打ったり、ロングティーをしたり、緩い球を飛ばす機会が圧倒的に多くなる。そこで起こりうる弊害が、テイクバックに入るタイミングが遅くなることだ。この感覚が体に染みつくと、シーズンに入ってからの順応に時間がかかってしまう。「冬場、バッティングケージを5カ所作るとしたら、1カ所だけ8メートルの距離から、120キロぐらいで投げるピッチャーを入れておきます。距離が短いので、体感としては140キロ近くになる。これは甲子園で浦和学院に負けてから取り入れたことで、今は1年通してやっています。狙いは、トップを早く作ること。グリップをキャッチャー方向に引いて、引き切ったところがトップ。つまり、バットを振り出す準備を早く作る。ボールを持ったピッチャーの手と、バットを持った手の距離をできるだけ長く取れるのが理想です。これは、中学生にも高校生にも言えることですが、手を引き切るのが遅い選手が多い。ボールがリリースされるときには、もう準備を終えていないと、速いピッチャーの対応は難しくなります。ただ、これは言葉で言ってもなかなかわからないことで、実際に速いボールを打っておかないと、自分で気づくことができません」シーズンに入ってからの話になるが、準備の重要性を理解させるために、あえて好投手と対戦する機会を作り出している。ドラフト候補と呼ばれるレベルのピッチャーと対することで、「今のタイミングでは打てない」と気づかせるのだ。「監督として、気を配っているのが練習試合の相手です。公式戦前の3月、6月、9月、10月に、トップレベルのピッチャーと戦っておく。ぼくの感覚としては、140キロぐらいであれば、準備が多少遅くても対応することはできます。でも、148キロを超えてくると、その遅さが致命的になる。そこにどれだけ早く気づけるかです」昨年は、大船渡の佐々木朗希(ロッテ)、興南の宮城大弥(オリックス)、横浜の及川雅貴(阪神)ら、のちにドラフト上位で指名されるピッチャーと戦った。加えて、バッティング練習を動画で撮影して、「このタイミングでは遅いよ」と視覚的に気づかせることも多い。秀光中時代から、iPad やスマホを活用して、さまざまな場面を撮影していたが、「高校に移ってからのほうが、より動画を撮るようになりました」と話す。そこには、中学生と高校生が歩んできた道の違いがある。「高校生は、自分なりの理論や考え方を持っています。だから、頭ごなしに言葉だけで伝えても、それまでの取り組みをなかなか変えられない。気づかせるためには、好投手との対戦や、自分の映像を客観的な視点で見ることが必要だと思っています」そして、手を引き切るタイミングが遅れ、結果が出なくなると、たいていの選手はトップの位置が浅くなってくる。その結果、バットを振る出力は弱くなり、ボールに対する間合いも取れなくなる。「もうこれは絶対といっていいレベルですけど、状態が悪いバッターは、トップが浅くなっています。空振りしたくないという心理が働いているのかはわかりませんが、本当に多い。でも、バッター自身はなかなかわからない。これも、映像を撮るしかありませんね。ひたすら、映像を撮ります」深いトップを作るには、どんな練習が必要か。須江監督が、秀光中時代から大事にしている練習がある。続きは本書から(書籍では写真を交えてより詳しく紹介されています)。 須江航(すえ・わたる) 1983年4月9日生まれ、埼玉県出身。仙台育英では2年秋からグラウンドマネージャーを務め、3年時には春夏連続で記録員として甲子園ベンチ入り。八戸大を卒業後、2006年に仙台育英秀光中等教育学校の野球部監督に就任。中学野球の指導者として実績を残し、2018年に母校・仙台育英の監督に。 著者:大利実(おおとし みのる) 1977年生まれ、横浜市港南区出身。港南台高(現・横浜栄高)-成蹊大。スポーツライターの事務所を経て、2003年に独立。中学軟式野球や高校野球を中心に取材・執筆活動を行っている。『野球太郎』『中学野球太郎』(ナックルボールスタジアム)、『ベースボール神奈川』(侍athlete)などで執筆。著書に『中学の部活から学ぶ わが子をグングン伸ばす方法』(大空ポケット新書)、『高校野球 神奈川を戦う監督たち』『高校野球 神奈川を戦う監督たち2 神奈川の覇権を奪え! 』(日刊スポーツ出版社)、『101年目の高校野球「いまどき世代」の力を引き出す監督たち』『激戦 神奈川高校野球 新時代を戦う監督たち』(インプレス)、『高校野球継投論』(竹書房)、『高校野球界の監督がここまで明かす! 野球技術の極意』『高校野球界の監督がここまで明かす! 打撃技術の極意』(小社刊)などがある。2月1日から『育成年代に関わるすべての人へ ~中学野球の未来を創造するオンラインサロン~』を開設し、動画配信やZOOM交流会などを企画している。https://community.camp-fire.jp/projects/view/365384 関連記事 【明豊】名将によるバッティング上達メソッド!(川崎絢平 監督)2021.11.25 トレーニング 【明石商】名将によるバッティング上達メソッド!(狭間善徳 監督)2021.11.15 トレーニング 【履正社】名将によるバッティング上達メソッド!(岡田龍生 監督)2021.11.10 トレーニング 「高校野球監督がここまで明かす!投球技術の極意」長谷川菊雄監督|八戸工大一2021.10.25 トレーニング 「高校野球監督がここまで明かす!投球技術の極意」清水央彦監督|県立大崎2021.10.18 トレーニング 【三重・海星】葛原美峰アドバイザーの「投手攻略メソッド」とは?2021.11.5 トレーニング

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