【浦和学院】若き指揮官がもたらした変革、伝統校に加わった「新たな色」

【浦和学院】若き指揮官がもたらした変革、伝統校に加わった「新たな色」

甲子園22回出場、センバツ優勝1回。そんな偉大な実績を持つ前監督の父・森士(おさむ)氏から昨夏にバトンを受け継いだ森大(だい)監督。甲子園初采配となったセンバツ大会ではベスト4進出。前任者の遺産を引き継ぎつつも、スタイルや采配は自分のスタイルを貫くY世代監督。新しく生まれ変わった浦和学院の話が聞きたくて、グラウンドに森監督を尋ねました。 「浦和学院」のイメージをひっくり返す大変革「大内、お前の守備がうまいことは誰もが知っているんだから、消極的なプレーはしないようにしようよ。大内、オーケー?」スピーカーから森大監督の声が響き渡る。埼玉・浦和学院の野球部グラウンドでは、シートノックが行なわれていた。セカンドを守る大内碧真のプレーに迷いを感じ取った森監督はプレーを止め、マイクを通して大内を激励した。大内は大きな声で「はい!」と返し、ノックは再開された。これまで抱いていた「浦和学院」のイメージが180度ひっくり返った思いがした。練習後、ドラフト候補に挙がる正捕手の高山維月にそんな感想を伝えると、こんな答えが返ってきた。 「チームが一気に変わった感じはあります。森(士)先生の頃は朝練から大きな声を出して、動きを揃えて『軍隊みたい』と言われていたみたいですからね」かつて5時半に起床して行なっていた早朝練習も、今は廃止された。就寝時間は以前までの23時から、今は21時〜21時半に。高山は「寝る時間が長くなって疲れがとれるようになりました」と、その効果を語る。昨秋から今春にかけてチーム内の平均身長が1.5センチ伸びたという。高山に至っては身長178センチ、体重65キロの細身の体が身長180センチ、体重71キロと一回り大きくなった。禁じられていたスマートフォンも解禁され、選手は自分に足りないものを埋めるべく情報収集に精を出す(ただしSNSでの発信は禁止)。まるで江戸時代のペリー来航のような大きな変革が起きている。これらの改革が、低迷したチームで起きるならわかる。だが、浦和学院は甲子園優勝監督の退任直後、しかも後継者となった息子によってスタイルが一新されている。前監督の手法を踏襲しておけば、批判は免れるはずだ。それなのに森大監督は森士前監督のスタイルからガラリと変え、センバツベスト4という結果を残した。なぜ変革できたのか尋ねると、31歳の若き指揮官は少し考えてからこう答えた。「現役の頃から浦学を知っていて、森士と同じ野球は到底できないと思いました。指導力、戦い方、人を惹きつけるカリスマ性。すべてひっくるめて自分にはできないと悟ったんです」前任者である父のスタイルを否定し、改革したわけではない。森監督はその点を強調した上で、こう続けた。「監督・森士の原点は何かと言えば、選手への愛情の深さだと思うんです。常に全力で厳しいのは、すべて選手のためを思ってのこと。それは歴代の名監督にも通じる部分だと感じます。1分1秒を生徒と向き合い、寄り添う愛情は引き継ぎながら、スタイルや采配は自分のスタイルを貫いたほうがいいと考えたんです」大学院で学んだ心理学森大監督のスタイルとは、そのキャリアに答えがある。浦和学院卒業後は早稲田大、三菱自動車倉敷オーシャンズで投手としてプレー。25歳で引退後は母校のコーチを務める傍ら、筑波大、早稲田大の大学院で指導者としての基礎、理論を学んだ。とくに早稲田大大学院で心理学を学んだことが、森監督に大きな影響をもたらしている。「実習として心療内科で白衣を着て、鬱病に苦しむ患者さんの診療にも携わっていました。今は自己肯定感の低い人が多くて、鬱病や適応障害に苦しむ人が増えています。自己肯定感の低い高校生に『てめぇ、何やってんだよ!』と怒鳴ってしまったら、そのまましゅんとしょげてしまいます。少子化の影響で親から過大な愛情を受けて育ち、怒られ慣れていない生徒も目立ちます。子どものアイデンティティが変わってきているのですから、指導のあり方も変えていかなければならないと感じます」冒頭の大内への声掛けは、まさに心理カウンセラーとしての顔も持つ森監督ならではの手法だったのだ。心理学を学んだ恩恵は他にもある。森監督は「ヤフコメ(Yahoo!ニュースのコメント欄)を見るのが好きなんです」と衝撃のカミングアウトをした。「批判の声は逆に勉強になりますから。僕が監督に就いた当初なんか、『世襲、世襲……』のオンパレードで、自分でも『まさにそうだよな』と思っていましたから」インターネット上での批判を受け、精神を病むケースが社会問題化しつつある。それでも、森監督は「批判を恐れてはいけない」と考えている。「批判はあるもの。すべて肯定してもらえるわけではありません。選手にもよく言うんです。人は理想と現実にギャップを感じてダメージを負うわけですが、批判を受ける現実の自分も『これが自分なんだ』と受け入れることが大切です。批判を受け入れないと、今の時代では通用しませんから」伝統校に加わった「新たな色」2021年秋、森監督は就任するにあたって、ユニホームを縦縞からアイボリーのデザインへと戻した。2009年に森前監督が高校日本代表(関東選抜)の監督を務めたことを契機に、縦縞の日本代表風のユニホームに変わっていた。だが、「日本代表は森士監督の実績。僕が着るのはおこがましい」と、かつてのアイボリー地のデザインに戻している。だが、少しだけ変化を加えた部分があるという。「帽子のロゴマークの色をシルバーからゴールドに変えたんです。ほんのささやかな変化なんですけど、好評をいただけてうれしいですね。もちろん、その色には『頂点』の意味合いも込めています」浦和学院という伝統校に加わった、新たな色。それはやがて高校野球界の色味をも変えてしまう可能性を感じさせるだけの、不思議な魔力がこもっている。(取材・文:菊地高弘/写真:編集部) 関連記事 『監督からのラストレター』浦和学院高校/森士監督2021.3.15 学校・チーム 【浦和学院】3食を共にして掴み取った5年ぶりの夏甲子園2018.10.23 カラダづくり 【浦和学院】森士監督が考える「食」の今と昔2018.10.15 学校・チーム 【2018甲子園注目選手#25】蛭間拓哉(浦和学院)2018.8.11 選手 【浦和学院】森士監督に聞く「投手育成術」2017.7.11 学校・チーム 【浦和学院】名門野球部のナツタイ直前練習に密着!2017.7.10 学校・チーム

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