【高松商】試合で許されないプレーは練習でも許さない

【高松商】試合で許されないプレーは練習でも許さない

2014年の就任以来、「選手自らが走り出す“自走する集団”」「やらされる3時間よりも自らやる30分」「価値ある答えは“正しい答え”より“考えた答え”」を指導のモットーに掲げ、高松商を立て直した長尾健司監督。お話を伺った後編です。「テクニック」と「スキル」の違い高松商の一塁側ベンチにあるホワイトボードには、さまざまな言葉が記されている。長尾健司監督が、チームにもっとも伝えたい“旬”の言葉を書いていることが多い。秋の県大会決勝を翌日に控えた10月中旬、ホワイトボードに書いてあったのは、「テクニック」と「スキル」。似たような意味合いにも感じるが、明確な違いがあるという。「昨日のミーティングで、話したばかりです。テクニックとスキルに対して、日本人は『技術』という言葉で一括りにしてしまうけど、この2つの言葉には違いがある。テクニックはボールを捕ったり、打ったりすることで、スキルはその磨いたテクニックを試合で発揮するためのもの。高校野球の練習は、テクニックを高めることに偏りすぎていて、スキルを磨く時間が少ないんです。という話が……、ラグビー日本代表の元監督、エディ・ジョーンズさんの本に書いてありました。たしかにそうだなと。自分でも、何となくは感じていたことですけど、こうして言葉で定義されると、よりわかりやすい。選手たちにも伝えやすくなりました」;長尾監督は、本や雑誌、テレビなどから、さまざまな考え方を学び、「これは使える!」と思ったものは、すぐに指導に生かす。「何の実績もないぼくが言うより、すでに結果を残している人の言葉を引用したほうが、説得力がありますから」良いと思ったことは、どんどん伝える。何かひとつでも、選手の心にビビッと刺さる言葉があればいいと、考えている。スキルを磨くカギは準備にあり試合前日の練習では、2カ所のフリーバッティングが行われていた。走者と守備を付けて、バッターは状況を考えながらバッティングを行う。グラウンドはサッカー部と共用のため、全面を使えるのが月曜日と木曜日のみ。残りの平日3日間は、ピロティーや室内練習場を使い、打ち込みやトレーニングに時間を充てる。「テクニックとスキルの考えからいくと、グラウンドを使えない日にテクニックを磨き、グラウンドを使える日にスキルを磨く。うちのフリーバッティングはランナーも守備も付けるので、実戦的です。ここに打球が飛んだ場合に、どこに投げればいいのか。瞬時のスキルを磨くことにつながっています」 では、スキルがある選手とない選手の差はどこにあるのか。そう聞くと、「準備不足です」と即答した。「次に何が起きるか、プレーを想定できていない選手は間違いなく慌てます。野球は、ピッチャーが投げるまではプレーが始まらないので、それまでに必要なコミュニケーションを取ることができる。時間をかけるべきところでは、しっかりと時間を使っていい。準備ができていない状態で投げると、判断ミスが起きてしまいます」投球のテンポも大事だが、ピンチになったときには、あえて時間を使っていく。試合で許されないプレーは練習でも許さない取材後の県大会で準優勝を果たし、四国大会でも準優勝まで駆け上がった新チーム。この秋の段階で、長尾監督が求めるのはどんなことか。「自立です。技術的な力やチームのカラーは、その年代によって違うので、そこは気にしていません。下級生は、浅野(翔吾)や本田(倫太郎)に頼っていたので、今度は自分たちで引っ張っていく番です。“良い子”はたくさんいるんですけど、“勝てる子”“チームを勝たせる子”になってほしいですね」長尾監督が練習を見るときに、大事にしている観点があるという。「単純な話ですが、『試合で許されないプレーを練習で許すな』。試合でダメなのに、練習でオッケーはないわけです。ダメなプレーが出たときに、周りの選手がどれだけ指摘できるか。今はまだ、監督が言っている段階なので、それでは勝てないですね」なぜ、監督からの指摘では勝てないのか。その理由が、選手の主体性を重視し、『価値ある答えは考えた答え』を掲げる長尾監督らしいものだった。「監督はフェアゾーンではなく、ベンチにいるので。グラウンドの中にいる人間が言えるようにならないと、瞬間、瞬間の判断が遅れていきます。ベンチからの指示やサインを待っていたら、もう遅い。だから、自分で判断できる選手がいたほうが、絶対に強いと思っています」判断力も、スキルのひとつだろう。このスキルがなければ、持っている力を試合で出し切ることはできない。「選手によく言うのは、『勝敗は相対関係だよ。うちが100の力を出したうえで、相手が上回ったのならそれは仕方がない。また練習をすればいい。でも、うちが80の力しか出せなくて負けたら、それは悔いが残るよな』。練習の段階から、試合を想定して、常に100を出せるようにしておく。やることがきっちりとできれば、そう簡単には負けないものです」準々決勝で、近江(滋賀)に6対7で敗れた今夏の甲子園。バントや守備にミスが続き、自ら主導権を手放す展開だった。「負けに不思議な負けなし」長尾監督がよく口にしている言葉だ。普段の練習から、「負け」の要素をどれだけ減らしていけるか。ひとりひとりが自立し、試合の中での判断力を高め、100の力を出せるようになったとき、おのずと勝利は近付いてくる。 (取材・文:大利実/写真:編集部) 関連記事 【高松商】監督が必ず新入生に送るメッセージ、ドラ1浅野が成長した理由2022.11.16 学校・チーム 【導く力 自走する集団作り】「良き伝統を作り上げる」(高松商業・長尾健司監督)2022.8.17 学校・チーム 【導く力 自走する集団作り】「指導者としての原点」(高松商業・長尾健司監督)2022.8.16 学校・チーム 高松商業が実践する!最新のコンディショニング方法2019.3.7 カラダづくり 【高松商業】あり?なし?気になる選手たちのSNS使用状況2017.10.25 学校・チーム 【高松商業】タブレット端末を使った投手陣の練習2017.10.25 学校・チーム 【高松商業】タブレット端末を使って自分で考える力を養う2017.10.24 学校・チーム 【高松商業】センバツ準優勝の原動力ともなった「ボール球を振らない」練習法2017.9.8 学校・チーム 【高松商業】伝統校が進化する、「自立」への指導術2017.9.6 学校・チーム

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